この人間は気が狂うか、


我々を置き去りにするか、


どちらかである


カミーユ・ピサロ


















前と後者















「あのさぁ」


沈黙の中、とうとう口を開いてしまった。
もう、限界だったのだ。


「なぁに?」


返ってきたのは猫なで声で




「もう俺に付きまとうのやめてくれない?」
「どうして・・?」
「ウザイんだよ」


はっきり言うが、これはストーカーと変わりはない。
目の前の少女を軽蔑するような、そんな目で睨んだ。
この言葉は相手を傷つける事だと百も承知。そして、女を睨むのは気が引ける。

だけど、この言葉を何度口にしただろうか。
女の変わらない態度に溜め息をついた。
かれこれ、1ヶ月ほど前からこの女は付きまとっている。1人のときは勿論、友人達といる時にさえついて来るのだ。
そして何故かこの女は自分の友と友好関係をいつの間にか築いているではないか。



「私の事嫌い?」
「ああ」
「どうして?」
「嫌いは嫌いなんだよ」
「どうして?」
「ウザイ」


女が俺の腕を掴む。
弱弱しい細い手だった。



「私は好き」
「・・・お前、いい加減にしないと女だからって容赦しないから」



思い切って、掴まれた腕を振り払った。
ただ見つめてくるだけの女に余計苛立ちが募った。



「好きなの」
「これ以上付きまとうんなら、俺はお前を殺すかもしれない」



本気で言ってないが、半分は本気のつもりでもあった。
殺すなんて言われたら、誰だって怖いだろう。
ここまで言われて付きまとう馬鹿がいるのだろうか。
だからこの女もこれで諦める。



だけど、女は顔色何一つ変えずに見つめているだけだった。




「好きでいて何が悪いの」
「好きになってもらいたくて何が悪いの」




「お前さー、自意識過剰なんじゃねーの?」


嘲笑った。
自分でも酷い奴だと思う。だけど、全てはこの女が悪いのだと自分に言い聞かす。



そして初めて顔を俯かせた女に勝利を予感する。
これで、やっとこの女から救われる。
だが、女は床に向かってブツブツ言っていた。



「じゃあ、私の事を好きなったら・・?」


何を言い出すのかと思えば、そんなくだらない事か。


「ありえないね」
「どうして」
「嫌いだから」
「ずっと嫌いでいると言えるの?」
「じゃあ、聞くけど。俺がお前を好きになる確信はあるわけ?」
「・・・」


何も答えない女に最後まで軽蔑の目で笑う。
俺はやっと解放されると思い、女から顔を背け、向きを変え歩みだす。




「じゃあな、もう2度と俺の前に現れんなよ」

「いいよ」




吃驚した。
返事が返ってきたのだ。だけど、俺は振り返らなかった。
あっさりしている、そう思ってしまう。




「最後に言っておいてあげる」




少しだけ棘のある女の声に、何故か全身が凍った気がした。
先程の猫なで声は一体なんだったのだろうか、そう問いたくなってしまうのも無理はない。




「アンタは私の事が好きなんだよ」


「好きじゃないって言っただろ」



今女がどんな顔をしているかなんて知らない。
だけど、見る気もしなかった。
こっちを睨んでいるのかもし知れないし、怒った顔をしているのかもしれない。

もしくは無表情か





「後で気がついたって遅いから」




妙に自信たっぷりの声にムカつきながら、返事をする言葉が見つからず、俺は鼻で笑ってその場を後にした。














「あーあ」
「何だよ」


友人がこれとないほど、睨んできた。
俺を裏切り女と交友関係を築いたお前はアイツの味方か。

「彼女に何か言ったよね」
「ああ、そのこと」
「傷つけたんでしょ?」
「俺が傷つけられたんだよ」
「君は傷ついてない」


被害者は誰だったのだろうか


「お前はアイツの味方なんだよな」
「僕は誰の味方でもない」
「そうかよ」


風とともに、ほこりが舞った。


「君は馬鹿だ」
「そんな事どうでもいい」
「君は彼女を傷つけた」
「あんな女、消えて欲しいね」


ダンッ


友が壁を叩いた。
それが遠いところから聞こえた気がした。



君は彼女がどんな顔をしていたか知ってる?

興味ない



睨んでもなくて、怒った顔でもなくて

無表情でもなくて






「彼女はあの時泣いていたんだよ」





それがどうした

と、言えない自分がいた。











「もう遅いよ」




全身が凍った
























































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