ブロロォー


「そこの君!」


キキィ―(注意*バイクは急に止まれません)


「誰だ?」



「カモンベイベー!イケメン☆(ぐっ)」
「・・・(え、何?)」


華の17歳の俺
変な女に捕まってしまいました。





夏の道化師





女は大量の荷物(かなり重そうだ)を道端に積んで佇んでいた。
その荷物の多さは異様なほどで女1人が持てるはずのない物。しかも、こんな暑い夏。だけど、太陽とは全く正反対の女の白い肌。白いと言うより青白いかもしれない。年齢は自分より3つ上くらいか、いやかなり年をくっているかもしれない。


こんな奇妙な女は関わらない方が身のためだ。そうだ。しかも、こんな真夏日に帽子さえ被って日傘さえ差していない。なのに何故白い。改めて変な女に遭遇してしまったと感じた。



「ヘイ!・・・カモン!!」
「・・・(マジで、俺?)」
「・・・はよ、コイや(イライラ)」



バイクに跨りながら今の状況を考えてみる。
今日は学生時代からの親友である男と、その彼女の結婚式の知らせを受けて、祝いに行くためにバイクを走らせた。
そのためにシャンパンも奮発して買ってきていた。
今は、その同棲中の彼らの家に向かう途中だった。
結婚式の詳しいことについて、教えてもらうためだ。彼は友人代表として祝辞を任されている。自分の事のように思いながら、彼は心を弾ませてバイクを走らせていたのだ。


で、今なんでしょう。この状況
暑さのせいか、変な女のせいか、俺の思考能力は落ちていた。
そんな彼に苛立ち始める女



「ちょっと!突っ立てないでこっちに来てよ!!」
「・・・何でだよ」
「うっさいな!来なさいよ!!」


この女はかなりヤバいぞ。


「早く来いヤー!」
「何で行かないといけないんだよ」
「良くぞ聞いた若造!」
「(若造って・・・)」



軽い目眩に襲われる。
それに比べて女は元気そうだ。



「私とこの荷物たちを、そのバイクで少し先の駅まで運んで欲しいのだよ!」
「嫌だ」
「なんですと(ガン)」



ある程度、まあ予想は出来ていたが、何故見ず知らずの、しかも変な女だ。
彼は一刻も早く、親友の家に行きたかった。



「あー、もう!乗せろ!!」
「命令すんな」
「命令じゃないよ。ボランティアさ!」


女は当然のように言う。


「知らねーよ」


出来れば関わりたくない。
バイクに跨りなおしてハンドルをギュっと握る。それを見ても別段、慌てることのない女


「いいさ!いいよ!!アンタなんかどこへでも行けっつーの!
 その代わり、私はココで死んでやるー!!」

「はぁ!?」



いきなりしゃがみ込んだと思ったら、女は顔に両手を当てて泣き始める。いや、本当に泣いているかは分からないが。
だけど、いきなり叫び始めた女



「ああ!

 私は顔だけの最低な男に

 見捨てられたがために

 ココで干からびて息絶えるのね!

 呪ってやるわ!!」



ギャーギャー叫んでいる女


「おたんこなすー!すっぽん!バケツー!ハゲー!人殺し〜!!」
「(おいおい)」


何なんだ。マジでこの女
しかも、バケツ?・・・バケツってなんだその嫌味なたとえは。ハゲ・・・と、まあ、これはまだ許せる。だけど、人殺しって何だ。勝手に人を犯罪者扱いするな。



「私の人生はこれで終わりよー!」
「・・・・はぁ」


バイクから嫌々降りる。
そして女のところまで歩いて積んである一番上の荷物を持ち上げる。


「そこまでだからな」
「よっしゃー!さっすがイケメン!!」
「・・・(泣きそう)」


女は爽快にバイクの所まで走っていく。
そしてダイブするかのように、後部のほうへ乗った。
しかも「早く!」と手招きしているではないか。


ん?・・・ちょっと待て



「なぁ」
「何でしょう?」
「これ、バイクに乗せきれないぜ?」


指差したのは積まれた荷物
どう考えてもバイクに人を2人乗せて、こんな沢山の荷物も運べるはずがない。
肝心なことを見落としていた。だが、女はあっけらかんと笑った。


「あ、大丈夫。私の荷物、一番上にあった、君が今もってるのだけだから」
「こんだけかよ!」


じゃあ、他のこの積まれた荷物は一体何なんだ。そう思ったけど、どうでもイイのほうに気持は傾いた。


「いや〜。暑いねぇ」
パタパタ、手で煽ぐ女を睨んでから、軽い荷物を女に投げる。


「ああ!投げんなよ!」
「うっせー」





ブロロォー


辺りは誰もいない道

バイクは走る



「あんた図々しいな」
「ええ?」

がっちりと俺の腰をホールドしている女に言う。最初はあまりの締め付けに「ぐぇ」と声を出してしまったほどだ。緩めてもらったのは言うまでもなく。


「子どもみてーだな」
「あら、褒められちゃった?」
「いや、呆れてる」


いつも以上に安全運転を心がける。
こいつとだけは死にたくない。
しかも親友二人の結婚式を目前にして。

いつからだろうか、太陽の日差しは分厚い大きな雲によって隠れ始める。



「ねぇ、どこ行くつもりだったの?」
「べつに」
「ふーん、教えてくれないの」

シャンパンはもう、ぬるくなっているだろう。ああ、あのまま行っていたら冷えたままだったのに。



「結婚を控えた友達を祝いに行く途中だった、とか?」
「・・!」
「あ、あたりね?」

何で・・・と口にする。


「私、占い師なのよ」
「(うさんくせー)」
「マジで締めるよ?」
「ごめんなさい」



ブロロォォ


「ん?疑っているね。何なら君の事を占ってあげるよ」
「いや、別にいいし」


雲の流れが速い
もしかしたら、一雨来るかもしれない。
早い所、駅まで連れて行ったほうがいいな。

黙りこくっている女をチラリと見る。
先程とは打って変わって真剣な顔の女


「君には大切な人がいるね」
「何?(もしかして占ってんの?)」

まぁ、暇つぶしだ。そう思って黙って女の言葉を聞く。
本当に当たるかどうか見ものだ。





「これから先、君には守るべきものが沢山やってくる」

「知恵を出しても、力を出しても」

「それは、するりと消えて」

「全て、失ってしまうでしょう」









ブロロ





ブロロ





「つまり俺には悲しい未来が?」
「さぁ、分からないよー」
「何で?」
「だって、未来は自分で切り開くものじゃん」

女はいいことを言っているのかも知れないが、泣けては来なかった。


「じゃあ、占い師なんていらない」
「いやいや。そうでもないよ」
「何で?」


太陽がまた射してきた。気まぐれな天候だな。
女は荷物から帽子を取り出す。
あるんなら初めから被っておけ、と心の中で突っ込んだ。



ブロロォ



「これから先、何があっても自分を信じて」
「は?・・・どういう意味?」
「ちゃんと周りを見聞きして、惑わされないで」

問いかけに答えない女に眉を顰めながら、占いは続く。
そう言えば、この女の名前は何だろうか。今更ながら、ふと思う。だけど、聞く必要はない。女を駅まで送れば、これから先、一生、会う事はない。だから、聞く必要もないだろう。



ブロロ

ブロロォォ






誰もいない道の先、右手のにベンチが一つあった。
バス停でもないのにな、そう考えつつ、その横を走り抜けるとき、「ニャァ」と小さく猫の鳴き声がした。









「     」

女が何かを言った。












ブロロー





「聞えない。何て言・・」




・・・え?












キキィィー


思わずバイクを停止させる。
そして急に軽くなった後部を勢いよく振り返って見る。







「嘘だ・・・」










後部に女の姿はなかった。



そして案の定、シャンパンはぬるくなっていた。














































静寂の中、男は息を吐いた。











誰もいない道に

佇んでいたのは

1人の女



あの真夏の日

現れた女とは

もう、出会うことはなかった






もう10年以上も前の話だ。
雲が見え隠れした真夏の日、彼女が消えた後、
彼は一人、誰もいない道にバイクとともに、いつまでも佇んでいた。



あの日、あの夏、出会った女は

もしかしたら、全てを知っていたのかもしれない。
もしかしたら、本当に占い師だったのかもしれない。

今更だ。




本当は、少しだけ聞えていた。
風に乗って、最後の言葉

「あなたは1人じゃない」

俺は1人じゃない。






ブロロォ・・・




耳を澄ましたら聞えてくる真夏の音

「やっぱり名前聞いておけばよかったな」
「え?」

「・・いや、何でもない。そろそろ帰るか、家に」
「そうだね」





















未来は切り開くもの


























         ―――――――夏の道化師



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