数分前に顔を真っ赤にさせながら緊張した面持ちであたしに「行くねッ!!」と言って待ち合わせ場所である中庭へ行ってしまった可愛い友達を「ああ、とうとうあいつのものになるのかぁ」としみじみと寂しく思いながらも、彼女が嬉しそうに帰ってくることを確信して笑顔で見送り、そして良い報告を待っていたあたしの思いは見事に打ち砕かれたのだった。 『なんていうか根本的に世の中が全てにおいて間違っていると思うんですけど、どうなんですか』 「ちょっと、どういうこと、どういうことなのさ!」 泣いてあたしの元へ帰って来た彼女。事態を察したあたしは、2人の待ち合わせた場所にドカドカと乗り込んだ。すぐに駆け付けたため、まだ先輩はいた。しかし、どこかヘコミぎみだった。だが、今は先輩のことよりあたしの大切な可愛い友達が奴に傷つけられたのだ。これは、どういう事態なんだ。 「おまえか」 「何が「おまえか」なの!あんた、よくも可愛い友達をふってくれたわね!」 「あー」 溜息をついたようにその場に木を背にしてしゃがみ込んだ先輩を蹴り飛ばしてやろうかと思った。 「罪な男に質問です」 「ノーコメント」 「先輩はあの子が好きだったんじゃないんですか」 「ノーコメント」 「なんでふったんですか」 「ノーコメント」 「・・・(コノヤロウ!)」 ノーコメントばかりの先輩にあたしのイライラは限界まで達する。 彼女があたしの前から消えた数分後のことだ。泣きながら帰って来た彼女によれば何と「好きです!」と言って、5秒も間を与えることなく「ごめん」と彼女を見ないで言ったのだ。普段から彼女の近くにいたあたしは日ごろ先輩が彼女を見ていたことを知っているから「自信もって!」と応援してしまっていたし、告白を煽ったのはあたしだ。それなのに、それなのにさ! 「あの子が好きだって言ったくせにさ!!」 「はぁ?言ってねーし」 「毎日毎日、あっつーい視線を送ってたじゃん!誰だってそんな視線感じたら自分のこと好きなんだって分かるつーの!」 その言葉にはじかれたように顔を上げた先輩の目とバッチリ合ってしまってすこしだけ吃驚した。そして、全く反省していない顔の先輩。ああ、なんていえばいいんだろうか。彼女はきっとまだ泣いているに違いない。これではあたしの計算が全くもって狂ってしまったではないか。大丈夫なんて言ってしまったのに。 「お前、バカ?」 「はい、何ですと?」 「バカじゃねーの」 「キー!何かムカつくー!」 何であたしがこんな奴にバカ扱いされなくちゃいけないのか。まあ、確かにコイツよりは遥かに成績は悪いし、年上で先輩だけど、バカなんて言われる筋合いは全く、全然、これっぽっちも微塵もないはずだ。 「あー、もうー、最悪だー」 「それこっちの台詞」 ふと、何故だか視線が痛かった。 先輩はさっきより、もっとへこんでいるようで、だけど不機嫌だという空気がこっちまで伝わってきて、もう本当にあたしの計算どおりにはことは進んでくれないのだ。 「何さ」 睨まれているようでそうでない視線に我慢できずに、声を発してそれに逃げてしまう。だって目が明らかに普段とは違って怒っている。だけどそれ以上何も言わずに、というか言えなくなって地面に意味もなく生えている雑草を見た。 「俺さぁ、お前を見てたつもりなんだけど」 「は・・・・?」 本気で頭の中が真っ白になった気分です。 何だ、何よ、何さ。 意味が分からない、状況が飲み込めない。先輩、あんたは今なんと言った? 「お前、本当バカだな」 ポカーンと口を開けているあたしに向かってバカと連発する先輩はのどをくっと鳴らして小さく笑っている。 ああ、その笑いが妙に色っぽくて心臓に悪いんですけど!どうなってるのかしら、ああ誰か助けて。 「これは俺でもかなり傷つくって」 そして、また、あたしに向かって「バカ」といった先輩の低温ボイスが頭の中で何度も何度もリピートされて、やっぱりまだこの状況には追いつけなかった。 気が遠くなるほどの痛い視線が、 先輩が動いた気がしたけどあたしは全く動けなくて 「襲ってやろうか」 「オーノー!」 ええ、それは脅しですか!いや、本当に全てにおいてごめんなさい。皆さん、ごめんなさい。 「ああ、どうしましょう」 「知るか」 何、なんていうか根本的に世の中が全てにおいて間違っていると思っていたのは、ただのあたしの間違いですか! (ていうか、あたしだけが間違っていたのかよ!!) |