「死んでもいいかな」
「私にそんな事聞いている時間があるなら、その真っ白なレポート用紙に何でもいいから文字で埋めなさい。それ明日提出なのよ」





夜、部屋でリリーと課題をしている私。これは明日提出な物で、もし忘れたら恐ろしい罰を受けることは目に見えていて。きっと今頃、数人は同じように泣きながらやっているんだと思う。私はひとり泣いているわけではない。断じて違う。リリーはもうすぐ終わりそうな勢いだ。そして課題と向かい合った途端「死にたい」と言った私をリリーは変人を見る目で見た。もう私はリリーに見放されてしまったらしい。ああ悲しい。そうこう考えているうちに、リリーは一度も私の方を見ずに着々とレポート用紙に綺麗な字を埋めていくのだ。
ていうか、何でもいいから文字を埋めなさい、ってダメだと思うんですけど。でも本当に何でもいいのかな。





「早くしなさい」
「へーい」
「一緒に徹夜はしてあげないわよ」
「分かってます(冷たい人だ)」
「冷たくないわよ。当然の事だもの」
「ごめんなさい」





小さく溜め息が出て再度、課題に向かい合ってみる。だけど何を書けばいいか全く分からない。自分がここまでバカだったなんて。ああ、思い知ってしまった。優等生のリリーが友達なだけに余計に自分のバカさが目に見えるほど分かってしまうのだ。シャープペンシルの先が一向に動かない。動いてくれない。どこかに答えは落ちていないのだろうか。リリー見してくれないかなあ





「言っておくけど、見せないから」
「(もう私の人生終わった)」





私はシャープペンシルをレポート用紙に投げてバフっとベットに倒れこんだ。その時、私のマイ抱き枕のほつれた細くて長い糸が口の中に入ってきてうえ、っとなった。だけど目を閉じて迫り来る時間に恐怖しながら私は現実から逃げた。逃げた。出来ないものは出来ないのだ。ああ、先生の奴隷にでも、全裸で校内一周でも、何でもやってやるよ。ああ、それか、あれだ。頭の良い別のお方に見してもらおうか。もうプライド何てとおに捨てたのよ。あははは
瞼が重くなってきて、ああ寝てしまう。そう思っていたら何かが机に触れた音が部屋に響いた。きっとリリーが手に持っていた筆記具が机に置かれたのだ。もう完成したのかな。早いな。凄いな。眠いです。頭イタイ。寝てるのに痛い。





「   」




夢の世界でリリーの声が聞えた気がした。いや、実際、聞えているのだろうけども、あえて私は聞こえない振りをしていた。寝ています。私、今寝ています。だって課題しろ何ていわれたら私は泣いてしまう。




「課題やりなさい」




グズグズ、今度は細い長いほつれた糸が鼻の中に入ってきてくしゃみが出そうになった。寝ているのに大変だ。私は断じて起きていない。寝ているのだ。そして、抱き枕を買い換えなければ。抱き枕はもうボロボロだ。今までありがとう。(しみじみ)




「私は知らないわよ?」




こっそりと様子をうかがう。気がつけばリリーは自身のベットの中に入っていて、もう私のランプしか付いていなかった。目を閉じて寝たふりを熱演していたので、部屋の変化に全く気が付くことができなかったのだ。何だか怖くなって思わず身体を動かし、下に敷いていた布団を救出し、がばっと被った。私のランプは付いたままだ。見ればレポート用紙とシャープペンシルだけが机を泳いでいる。




「リリー」




怖さの限界でリリーと呼んでしまった。今、頼りになるのは彼女だけだ。頼りにしていた長年の思い出が染みついた抱き枕は使い物にならない。鼻が痒い。





「リリーリリー」





リリーリリ-リリー
リリーって言葉、私の大好きな言葉なんです。




ああ、リリーはもう寝たのかな。寝ちゃったのかな。そっか、何か寂しいなぁ。怖さより寂しさが増して、毛布を足で蹴飛ばして起き上がった。机の上にあるシャープペンシルを握り締めてレポート用紙の前に座る。
3分ぐらい、本当は1時間ぐらい経っている気がするけど、ちっぽけな頭で考えても、全く書くことばが思いつかなくて、分からなくて、カチっと言う音がした。時計をふと見たら午前零時をすぎてしまって、口がポカンと開いて目がショボショボになった。泳いで見えたのはこのせいか。




死にたいなぁ
死んでもいいかなぁ



リリーに死ぬなって言われたら生きるの頑張れそうだったのにな。私だって真面目に言ったのに。聞いたのに。そんな事で済まされちゃったよ。リリーにとって私はて所詮その程度だったのさ。
レポート用紙に落ちそうになる涙をズズッと鼻を吸って何とか止めた。だけど吸いすぎて鼻が痛痒くなってしまった。もう駄目だ。抱き枕のせいだ。




こんな自分嫌になる。
友達の大好きなリリーにも見放されて(もしかして、友達と思っていたのは自分だけだったのかもしれない。そうだったらどうしよう)、目の前の小さなレポート用紙にすら書く言葉が分からなくて、涙でそう





グズグズ
グズグズ




死にたいです。
死んでもいいですか。





「私は死んでもいいと思うわよ」




寝ていたと思っていたのに、暗いところ(彼女のベットのところ)から、リリーの声がした。そして、その言葉はランプの光とは真逆の冷たい暗い私にとっては悲しい意味をもつものだった。ズキリと胸が痛む。心が萎む。体温が急低下していく。私が死んでもリリーにはどうでもいいことなんだ。私はリリーのこと大好きなのに。ああ、気持を押し付けちゃダメだ。





「うん、そっか、そうだよね。ごめんね、リリー迷惑かけちゃって、さ」




ピーピー鳴る鼻をどうにか沈めようと鼻を左手の人差し指と親指でつまむ。死んでやる。死んでやる。課題なんて大嫌いだ。リリーに見放されたら私もう生きていけないんです。青春真っ盛り、死にます。
リリー今までありがとう。沢山、迷惑かけて。大好きだったよ。大好きだったんだよ。だから私が死んだら泣いてください。これが私の最後の我侭なんです。そして課題が出来なくてリリーに見放された事ぐらいで死んだ私をどうか笑ってください。だけど、私にとって課題はどうでもいいけど、リリーに見放された事は死ぬのに値する理由なんです。ああ、笑って





「課題やりなさいよ」
「いいの、私死ぬから」




ランプを消そうと手を伸ばす。リリーの顔は見えない。だけどリリーの声は相変わらずするから、きっと起きていてくれているのだろう。最後まで優しいのだ。リリーに大切にされ愛されている人が羨ましい。ムカついてしまった。いっそのことリリーの愛する男を殺して死んでしまうか。そしたらリリーは一生私を忘れない。私は夢の中で彼に笑いかけた。私のために死んでくれるかな。私からリリーを奪った罰として。

カチッ
音と共にランプの明かりが消える。





死死死死
逝こうよ、天国へ!地獄へ!!





ばいばい、リリー



私はそっと立ち上がる。これで見納めだ。飛び降りてしまおうか。






「   」





強い声が私を引き止める。
よかった。最後にリリーに名前を呼んでもらえたよ!!やったね!はは






遅くなっては朝になってしまうので、とり合えず部屋のドアノブに手をかけドアを開ける。
ドアはギィと可愛げなく泣いた。バカにすんな。泣くんじゃねえ。抜け出したことが、バレるではないか。




ばいばい、さようなら、またいつか会おうね、大好きだよ、リリー
















「あなたが死んだら私も死ぬわよ」































ああ




私は死ねない






































そんなことを言うリリーに、真っ暗なリリーが寝ているベットがある方向を見て涙が出てきた。悲しいんじゃないよ!


とり合えず、真っ白なレポート用紙に大好きなその文字を書いておこう。
きっと私は奴隷だって素敵にこなしちゃうはずだから。































私は出来上がったレポート用紙に満足げに微笑んだ。




大好きだよ、リリー








心伝















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