「ぎゃァー!」



私はコケた。



















「すげー、俺こんな豪快にすッ転んだ奴、久しぶりに見た」






尻餅をついた。尻と腰を撫でていたら、アイツがまじまじとこちらを吃驚したように見て、面白そうに可笑しそうに笑っていた。
可愛い彼女がコケたというのに何なんだ、この男は。ありえねー、と思って私は起き上がろうとする。
だけど簡単には起き上がれなくて苦戦する。何故かと言うと昨日から降り続けていた雨はつい先程やっと止んだところだったのだ。だから地面はグチョグチョのべチョンべチョンというワケで、私のお尻は(オニューのこのスカート)は見事にドロだらけになったであろう、と考えたる。このどうしようもない気持ちの矛先はヤツを睨むことで、手を打った。
睨まれた本人は笑いを噛み殺している。手ぐらい貸せよ、と言いたかったけど私は内気な女の子なんです。
転んだところを恋仲の人に見られるなんて・・・!お尻は泥だらけよ!


だからと言っていつまでも、こうしているわけには行かない。
足に力を入れて立ち上がるのだ。吹く風が体にまとわり付く、まるで私を押し返しているように。
でも、私だって負けないんだから!





「よしっ、起き上が」





れた、と思ったのに私はまたコケた。コケたというより滑った。
目に映る景色と状況。立ち上がれたのは一瞬の間だけであって、気が付けば、私のお尻から伝わる冷たい濡れた土の柔らかさ。何一つ変わっていない。繰り返される尻とグチョグチョのべチョンべチョンの地面との接吻。
私のお尻と地面はきっと恋人同士なのよ!





「ぶぶッ」





上から降ってきたのは、笑い必死にこらえていた低い男の声で、だけどとうとう我慢の限界らしい、笑い出した。そこには遠慮も気遣いも何もない。笑う、ヤツは笑うのだ。






「笑うな笑うな笑うな笑うな!笑うな!!!!」
「くッ・・・」
「あー、何なのよー!」
「もう、ダメ、死ぬ」






腹を痛そうに抱える男に本気で死ね、と思ってしまったのは許してほしい。
誰だってコケた所を笑われたら恥ずかしいでしょう。それも何度も。
大体、この男は私の彼氏だったはず。はず?
これは、彼女に対する態度でしょうか。


こうなったら、早くここから起き上がってヤツを殴らなければ気がすまない。
空を睨んで、もう1度だけ足に力を入れる。お尻は土色に濡れている。まっ茶色だ。最悪だ。ご愁傷さまだ。
んんん?下着にまで湿ってきたぞ。気持ちが悪い。


尻を地面につけたまま、両足を浮かせたのち、ぬかるんだ地面を勢いよく踏む。土が吸いきれなかった雨水は弾き飛び散ったが問題ない。反動を力にして立ち上がる。地面と尻の間に距離ができたことで、尻がスースーするのを感じた。

立ち上がれたとほっとする瞬間さえも与えてもらえず、途端、景色はまたもや一変する。
hey!私の存在する場所!!デジャヴ
尻に来るデジャヴ感はんぱない。





「いい加減にしろって」
「うるじゃい」





またしても、尻と地面が接吻している事に私は悲しくなった。
なんだこれは。誓いのキスか。求愛されているのだろうか。

どうしてこんなにも私はコケてしまうのだろうか。本気で考えても分かるはずもなく
私は運が悪いのだ。ああ、それとも運動神経の問題なのか
大きなぬかるみにはまり幾度となく滑っては転び滑っては転び。挙句、愛する彼には大笑いされ、尻は冷たくべちょんべちょん


もう顔が真っ赤になっている気がする。
何で、なんでなのだ。私は起き上がりたいのに。何かが邪魔をする。起き上がったと思ったら、デジャブ。またコケて。デジャブ。繰り返すのか、これを私は。あと何回繰り返せば許してくれるのだ。
笑っている男に、どうして助けてくれないんだよと涙する。





「ほら」


ぬっと目の前に出てきた大きな手




「な、何ッ!?」
「手かしてやるよ」
「じゃあ、は、早くかしてよね!」
「はいはい。すみません」





あまりの態度に抗議しようとした時、私の視界は激しく揺れ動き、体がふわりと浮いている感じで。ヤツに手首をつかまれていた。
そして目の前には愛する男の顔。一瞬の事でコケた時より心は踊った。
引っ張られたのに痛くなくて、ここにきてその優しさをジーンと感じてしまう。なんて簡単な女なのだろう。
そして、やっと起き上がれた事に安心したのか、何故か胸の辺りが、追いうちのようにジーンと来て、鼻がツーンとなった。





「もう、コケるなよ」




グチョグチョのべチョンべチョンの尻は勿論だが、私の頬にもヒンヤリ冷たさを与えた何かがあった。




「はあ、何泣いてるんだよ!?」





私は何で自分が泣いてるのか分からなくて、だからその質問に答えられなくて、自分がとても滑稽な人間に思えたのだ。





「どっか、痛めたか?」




笑っていたが今度は真剣に私の顔をのぞきこむので、思わず殴ってやった。
だけど今のパンチなどまったく威力はなくて、悔しかった。
もっと力が欲しい。







「馬鹿ヤロォー!」













その後、泥だらけのグチョグチョのべチョンべチョンのスカートは脱ぎ捨て、ズボンに履き替えたら、ヤツが「あのスカート似合ってたのにな」って言うもんだから私はお尻の痛みは、少しだけ和らいだ。しかし、ノーパンはスースーするな。


























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