【日常を逸脱した人のはなし】 ゆらゆら、揺れる ゴトゴト、体に響いていく 朝、5時過ぎごろ。 始発の電車に乗り込んだ私は田舎だからか、時間が早いからか、数人しかまだ乗っていない電車の中ですっぱいレモン飴を味わっていた。 口に放り込み飴を転がしながら、ゆったりと座る。いつもなら、ぎゅうぎゅうの蒸し暑い、効いているのか効いていないのか分からないクーラーの冷房に悪態をつけながらも電車に入ってずっと立ちっぱなし。 椅子が空く様子もなく、そのままボーっとしつつ今日1日の出来事を予想しながら溜息をついて約1時間後、電車を降りている状況だ。それが、今日は違った。1時間半以上も早く家を出て、用事があるわけでもないのに電車に乗り込んで、いや行く先は一応学校なのだけれど、それを考えたくなかった。考えてしまったら今日1日がとても辛くて嫌になってしまう。まあ、現に今すでに学校へ行くことが嫌になってしまっていたのだろうけれど。 それでも、初めのうちは、学校に行かなければ行けないという優等生的な考えがあったわけで、行こうとしていたのだ。授業中に話をしたり落書きをしない私が、寝坊やサボったりしたことのない優等生で勉強は出来なくて運動神経も良くなくて、だが何故か心は優等生で変に真面目で嫌いだ。だけど、性格というのは治すのは難しく、周りからは真面目と言われ続けて、ああ本当に疲れた、疲れた。 そして、今日そんな思い等どこかに吹っ飛んでしまったかのように、何もかもどうでも良くなった。 なめらかな車掌のアナウンスを聞いているうち、今までの執着とか義務とか何だかが薄れてきて「ああ、何で学校に行かなければ行けないんだろう」とか「何をやっているんだろう」とバカらしくなってしまった。ああ、本当につまらない。バカバカしい。 私の意識に反して体は、ゆらゆらと電車に揺らされる。 . . . . . . 「次は―――駅」 ここは、何個目かの駅 ゆったりと座れた椅子から見る窓越しのホーム まだ人は、少ない もしも、このままこの電車に乗り続けていればどこにつくのだろう。折り返してまた帰って来るのだろうか。遠くまでこの電車が行く訳ではないだろうから、結局は同じ場所に行きつくのだ。 けれど、自分にとって既にいつも通りの生活ではなくなってしまっていて、本来降りるべきである駅にはとっくに通り過ぎていたのだから、もう今は未知の世界。つい、すっぱいレモン味の飴を噛み砕いてしまったと同時に、不安と罪悪感が押し寄せてきた。 落ち着かせるように、欠けた飴を丁寧に味わう。それ以上に不安や恐怖に勝るものは期待だった。別に、これから行き着く場所に何かがあるという訳ではないのに。 変化を期待している自分は確かにいた。胸の中はドキドキしていて不思議な感覚だった。誰もいない無人の駅に投げだされたらどうしよう。電車が停止するにつれてビルが少なくなり、緑は増えていって人は時間と反比例して少ない。乗って来る者より降りる者が多い。ミーンと鳴くセミは一段と増す。 流石に無人の駅はないにしても、どこで降りようか。 さぁ、まだ今日は始まったばかり 「あー、とりあえず」 まだ降りるには早いのだから、ゆっくり |