気がつけば耳を塞いでいた。


そう言われたら、私の友達は不思議そうに「何かあったの?」「どうしたの?」なんて、聞いてくるだろう。だけど、生憎、私は何か特別な理由があったわけではなかった・・・といいわけをしてみる。

1年中、寝ても冷めても24時間悲しさが押し寄せてきているのだから、もう限界だった。辛くて耳を塞いでいたなんて答えてしまったら、余計につらくなってしまいそうだった。認めたくなかった。苦しいことを。

私はこの両耳からこの両手を離すことなんて出来ないのかもしれない。
無意識に、気がつけば両手が耳をふさいでいたのだから。

「何か悲しいことがあったの?」という投げかけは間違ってもいない。けれど塞いでいるつもりなんてなかったはずなのに、気がつけば私は自らの手でこの両耳をきちんと塞いでいたのだ。やっぱり、どうなっても、どう思おうとしても私はここから逃げ出したいと、この世界のありとあらゆるものがこの耳に届かなくなって欲しいと願ってしまっているのだろうか。どうにかこうにか時間が過ぎていくのをじっと待つしかないのだろう。

出たのか出ていないのか分からないような溜息を出しつつ両耳を塞いでいた両手をゆっくりとひざの上に下ろした。その時、軽くなった耳に生暖かい風がかかって、気持ちが悪かった。

そうして日々を続け、
時計を見れば、夜中の零時を過ぎていたところだった。何か夢を見ていたような気がする。そして、その夢のせいで私はまた悲しくなっている気がする。本当に私は一体どうなってしまったのだろうか。

いつの間にか「どうせ私なんて」という言葉が口癖になっていて、いつの間にかそれが自分自身に一番似合う言葉になってしまっていたのだ。ああ、もうこれはなんてこった。なんて惨めなんだろう。私は惨めな上にとても臆病者だ。現実を受け止められないのだ。

ギシ、っという音が私のすぐ近くで鳴った。その音がなった理由は簡単だ。彼が傍にいるのだ。その音は、私がこの世界にちゃんと存在していることを気づかせてくれる。彼がいなければ私は、この暗闇にまぎれてどこかに消えてしまえていたかもしれない。切なくなった。

やっぱりどうにかしてでも逃げてしまいたい。自分の存在さえも分からなくなるような世界へと行きたいと願うのは変なことなんだろうか。しかし、例え誰かに、世界中の人々に「君は変だよ」なんて言われてしまっても絶対に認めてやらない。これは意地だとかではなくたぶん、臆病なだけ。世界中の人から変だといわれる自分も、どうせ私なんてという考え方をしてしまう自分も全て知らんぷり。諦めてしまえ。という訳で、どうか私を笑ってください。


目を閉じればもう何も見えないはずなのに、何かが見えてきそうだ。この部屋は目を閉じなくとも真っ暗である。それゆえに目を閉じた時に逆に何かが見えてきそうで怖かった。それでも閉じてしまう。目を開ける力さえもないのだろうか、他の何かに支配されてしまったかのように言うことが聞かなくて目は開けられなかった。可笑しい。変だ。どうかしてる。



目を閉じて、何も見たくない。だけど、頭の中に恐ろしいほど鮮明に浮かんでくるものは、いつもの日常で嫌だ嫌だと繰り返し心の中で唱えているのに消えてはくれなくて、聞こえてくるのは私の心臓のひどい高鳴り。痛いほど速さを増している。聞きなれている音たち。それに耐え切れなくなって私はまた耳を塞いでしまうのだ。この両手で耳をきつく強く塞ぐ。それでも、耳に届いて頭の中を反響していく声は消えてはくれなかった。まるで私の神経を1つ1つ、ゆっくりと、だけど確実に破壊していく。



ああ、もう、消えてしまいたい。

ドクン、ドクン、と聞こえてくる心臓の音。もう、すべて見たくもないし聞きたくもない。


「俺の声聞こえるか」


どこか、遠くから聞こえる。同時に、自分の横で何かがうごめいた気がして、体が硬直する。
彼がいてくれている。

「なぁ」

「耳、塞ぐのはいいけどさ」

「俺の声だけは聞こえるようにな」




「うん」と、心の中、呟いた私は本物だった。








午前零時、君を待つ





君は、まだ何も知らないのだろう







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