寒い寒いこの季節に1人ぽつんと外でうずくまって馬鹿みたいに笑えるほど、それでいてどこか儚げな背中を見せていた彼女が、いつもよりちっぽけな存在に見えていつか、今消えてしまうんではないかと怖くなってしまった。そして気がついたら、僕は夢中だった。この窓から飛び降りてしまえば早く辿り着けると思ったけれど、それは自殺行為になってしまうので思いとどまる。息を上げながら走った。彼女のもとに早くしないと、姿を見ていない間に、いなくなるのではないかと。怖くて、怖くて仕方がなくて。いつも傍に居た彼女が急に遠い存在の人に思えてしまった。 こんなに息が上がるまで必死に走ったのは何年ぶりだったんだろうと思えるぐらいだった。だから必死で彼女を呼ぶも声がうまくでなかった。彼女は僕の声など聞こえていない様子で、こっちを振り向いてもくれなかった。 消えてしまう、早く捕まえないと消えてしまう。一人ぼっちは嫌だ。 「!」 深く息を吸い過ぎたせいで胸が痛い。喉も痛くなって、フラフラする足を叱咤しながら進む。今度こそ、精一杯に声を張り上げた。聞こえているだろうと思ったのに、彼女はうずくまったままだ。 その姿が生きているものじゃないみたいに見えたのはなぜ?全く動かなくて、どうしてだろう。心の中が空っぽになったみたいに何も分からない。頭の中が空っぽになったみたいに考えることを拒否していたのだ。 傍に駆け寄ったとき、彼女が見ていたものが目に入ってきた。こんな寒い寒い冬の中。これは一体どんな状況に第三者には見えるのだろう。小さな小さな猫が小さな小さな彼女を見ていて、彼女も同じだった。子猫に答えるように。僕はそれを見ている。ぼんやりしてきた。 「ねえ、その猫どうしたの?」 その言葉しか思いつかなかった。きっと聞こえただろう。さっきの声だってきっと聞こえていたはずなのに、まるで聞こえていないみたいに。無視したのではない。彼女は何かを耐えていて余裕がなかったのだ。 「猫死んでるの」 「・・・」 細い震える声が悲しげに笑いかけてくる。地面に寝転がるようにして、彼女を見続けている小さな小さな猫。僕は生きていると思っていた。死んでいるなんて考えられないほどに、それはまだ生き物だと感じさせる、温かさがあったのだ。死んでまだ間もないのか、体はまだ生暖かくて、命がまだ宿っているようだ。眠るようにきれいな姿だった。 「埋めてあげよう」 「・・・なんで死んだの」 寒い季節に、猫が死ぬことは珍しくもない。ましてや、昨晩は特に冷え込んでしまっていたんだから。ゆっくりと、猫を持ち上げて温かさの残るそれに生きているなんて言う希望はもう捨ててしまわないといけない。土を掘って、深く掘って、その猫が少しでも報われるように祈りをして。それが、ただの僕らのエゴだとしても、そうしないとこれから先きっと、生きていけないんだ。猫のためだと言っているけれど、本当は自分たちが救われたいから、祈りをするんだ。助けを求めているかのように、未だにこちらを見続けている猫に明日はもうない。かける言葉はもうない。言える言葉は消えてしまった。 「帰ろうか」 言葉はもうない
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