▼ 空の鳥籠 (1/15)
犬塚家には、決して立ち入ってはならないとされている森があった。
そこは里の端にある演習場のさらに奥に、こじんまりと鎮座している。
森と呼ぶにはあまりに小さな規模だが、丸ごとある一族の所有地と聞けば、その一族が木ノ葉でそれなりの地位を確立していると分かる。
オレはその場所を、赤丸をこの腕に抱いた日に母ちゃんから教わった。
それからオレの遊び場は若干制限されたが、それは大した問題でもなかった。
なんせ忠告された森は家からもアカデミーからもずいぶんと距離がある。
貴重な放課後の大半を移動に費やさなければたどりつけない場所に、わざわざ遊びに行こうと言い出す奴はいなかった。
オレでさえ、駄目と言われる前に行ったことがなかったくらいで、駄目と言われなければ興味も沸かない場所だった。
アカデミー近くの公園や、見晴らしのいい丘、それに緩やかな流れの川と、オレたちは飽くことなく近場で遊びほうけた。
ただ、駄目と言われたことが問題だった。
下忍になり行動範囲が広がるにつれ連続で起こったニアミスに、オレの好奇心はがぜん掻き立てられた。
それは赤丸も同じらしく、近くを通るたび鼻をひくつかせ、決まりを破らない程度にその森の秘密を嗅ぎつけようとしていた。
それでも幼い頃に繰り返された約束を厳守しているのは、ひとえに母ちゃんが怖かったからだ。
そうして何年間も不可侵だった土地はオレの中で神秘性を増し、親の言いつけ云々を抜きに入りたくないと思わせるようになった頃。
突如、その機会は訪れた。
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