▼ 黄昏に微笑む (2/16)
次の日、いつもの強気ないのちゃんに戻った私は、まだ授業前で人もまばらな教室の中に名前を見つけた。
教室に入るとき、先に来ていた友だちにかなり大きめな声で挨拶したのに、名前はちらりとも私の方を見やしない。
少しくらい私に関心持ちなさいよ!
昨日の今日でそっけない態度をとられたもんだから、私もさすがに頭にきて、わざと名前の近くの通路を足音を荒立てて歩いてやった。
それでも名前はなにか走り書きをしているのか、手元から目を離さない。
私は諦めて席に座ろうとして、一瞬立ち止まる。
考えた末に、Uターンして名前の隣に腰をおろした。
そこでやっと名前が顔をあげる。
「なに」
開口一番にそう言った。
名前の隣はいつも空席だったから、用事があるとでも思ったのかもしれない。
「べつに、天気がいいから、たまにはいかなぁってだけ」
私はそう言って外をながめる。
窓の向こうにはなんの変哲もない空が広がっていた。
名前の席はいつも日が差し込む窓際と決まっている。
確かに外の景色はよく見えるけど、こんな席、日当たりがよすぎて眠くなるから、シカマルですらめったに座らない。
それが分かっていて名前はその席に好んで座っていた。
今日みたいに朝早く登校してまで。
その行動は、私たちの目に奇妙に映る。
誰からも相手にされない自分を、まるで自分が相手してないんだって、周りに思わせようとしているふうにも見えた。
名前は人となれ合わない。
社交的だと言われる私にはそれが理解出来なかった。
他のみんなもそうだった。
だから名前の周りに人は寄りつかない。
そんな名前が今の私には都合がいいと思っていた。
誰かに話しかけたくもないし、誰かに話しかけられたくもなかったから。
それなのに、今日にかぎって名前は、よけいな一言を私にくれる。
「そっか、春野さんとはもう一緒に座れないもんね」
しれっとしたその声は、しんとした私の心にすとんとおちた。
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