▼ 肉食系女子 (2/10)
言い切ったところで、ガラッと教室の扉が開いた。
今日も今日とて、物を食べながら入ってきたチョウジは、朝の登校ラッシュからやや遅れての重役出勤。
広められたばかりの噂をまだ耳にしていないだろう。
のんきな様子でシカマルに挨拶をしていた。
とはいえ、すれ違う女子の視線が気になったようで、着席するなり前席の私に身を乗り出して尋ねた。
「ねぇ…今日のボク、そんなにキマってる?」
どう勘違いしたらそうおめでたい思考になれるんだ。
私は呆れ返ってチョウジの腹を思い出す。
あのぜい肉が奇跡的に六分割されたとして、チョウジが羨望の眼差しで見られることはないだろう。
それにしてもタイミングが悪い。
悪すぎる。
これだと次の日には、私たちがデキていると触れ回られるかもしれない。
しかし、ねえねえと背中を突かれたのでは、いつまでも無視しているのは難しかった。
「あのねえ、私に話しかけないで――」
授業前に決着をつけようと振り向いた私の視線が、ある一点に釘づけになる。
そして絶叫した。
「あー!期間限定サツマイモ味!!」
「え?ああ、うん。よく知ってるね。昨日発売だったんだよ」
「知ってるわよ!五軒もハシゴして探したんだから!店にないと思ったら…あんたやっぱり買いだめしてんでしょ!?」
「これは美味しそうな気配がしたからね」
キランと効果音でもつきそうなチョウジに、教室にいるということも忘れ私は思い切り舌打ちした。
この一瞬で恋バナ軍団は察したらしい。
こいつはシロだった、と。
「まあ、過ぎたことはもう言わないわ。…だから一枚よこしなさい」
友好的な笑みをたたえ、私はチョウジに手のひらを差しだした。
「え?」
心底心外そうな顔をしてチョウジが聞き返す。
「だからそのポテチを一枚よこしなさい。何なら一両だすわ」
「嫌だよ、だって今日は一袋しか持ってきてないんだ」
「十両」
「最後の一枚には、お金以上の価値がある」
十両あれば放課後にもう一袋買えるというのに、値上げには応じないという姿勢は敵ながらあっぱれ。
ただし反論材料はこちらにも残されている。
「何も最後の一枚を奪おうってわけじゃないわ。まだ袋の中にはいっぱいあるはずよ」
袋に手を入れてからすぐに目的のものを探し当て口に運ぶまでの動作は、まるで舞を見るようになめらかだった。
それはまだ中身がたくさんある証拠だ。
私の見立ては外れていない――はずなのに、チョウジは不敵に笑った。
「…果たしてそうかな?」
言うや否や、残りのポテチを袋を逆さまにして胃袋に流しこむ。
本日二度目の絶叫をした私は、座席に立つと後ろの机に足を乗っけてにっくき相手の胸ぐらを掴んだ。
「チョウジてめー!汚ねェぞ!!」
直後、まったく構えていない方向から攻撃を受け、つんのめって額同士が派手にぶつかる。
すぐさま怒鳴りつけてやろうと振り返った私だったが、それは叶わなかった。
「汚いのは名前の言葉遣いだッ!!」
授業開始を邪魔されたイルカ先生の怒りは、チョークを投げたくらいでは収まっていないようだった。
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