時空の死神 | ナノ


▼ 2.出会い-前編- (1/15)

昼間の病院は、空気が少し緩んでいた。
窓の外に見える景色は太陽に照らされ、のどかな気候の下、里は平和そのもの。
見舞い客用の椅子に腰掛けたカカシは、読書をするにはちょうどいい日和だと独りごちる。
そして読み途中である愛読書のイチャパラシリーズをめくっていた。
建物奥の個室だからか、遠くの喧騒はどこか夢のようで、間近に聞こえるのは夢見る少女の微かな寝息のみ――。

先日、突如姿を現わした少女は、関係者の願い虚しく、未だ目を覚ます気配をみせなかった。
その謎めいた正体を語らぬまま、こんこんと眠り続けている。

乱れた前髪を整えても、開かれた額には忍の証がない。
この年頃ならまだアカデミー生かもしれないと、あの日は部下の帰宅後にイルカを呼び寄せた。
しかし期待した答えは得られなかった。
他のどの教師に尋ねても、受け持ちの生徒ではないと返されるばかり。
最有力候補を初めから除外され、さすがのカカシも肩透かしをくらった気分になったが、申し訳なさそうに首を振られてしまえば、問い詰めることまではしなかった。
きっと何の情報を引き出そうとしたところで、何の成果も得られない。

「ま、これもオレの勘なんだが…」

どうせこの子は木ノ葉の忍ではない。
カカシはなぜかそう確信していた。

いくら下忍といえど、うちはの末裔は今年のナンバー1ルーキーだ。
アカデミーでサスケの背後をとれる実力者なら、とっくに卒業していておかしくないはずだ。
しかし実際、この少女は無名だ。
そこまでの実力を有していながら、一般人ということもあるまい。
少なくとも、気配の消し方だけなら上忍クラスなのだ。

とすればどこかの里の抜け忍か。
それならあの見慣れない服装にも納得がいく。
だが武器も持たずに、しかもサスケの攻撃だけで気絶するのは、いくらなんでも弱すぎる。
事実、あのときカカシが止めなければ、あの少女は確実に死んでいただろう。

寝ずの番のせいか、思考が堂々巡りをしている。
カカシは素顔を隠す口布の下で、小さな欠伸をした。
目の前にあるあどけない寝顔には毒気を抜かれると同時に眠気を誘われる。

「まったく…強いのか弱いのか、掴み所がないねぇ」

意識の戻らないその子の頭をそっと撫でてやると、反応があった。
恥ずかしがるように困ったように、眉を潜めながらも口元を綻ばせた。

検査でも分かっていたが、腹部や背部の強打が内蔵に与えた影響はほとんどなく、現状ではこの子に苦痛はないようだ。
ただ、頬についた傷痕を隠す絆創膏だけが、あの日を生々しく思い出させる。
これなら対話をするまでに回復するのも時間の問題だろう。

不意に、つかつかと廊下を渡ってくる音が近づいてくるのが分かった。
足音からして女性のものだ。
奥まったこの部屋を目指すのは、同じ任務を割り振られた同僚だろうと、カカシは来客がノックをする前に呼びかけた。

「紅か?」

やや空いて返事がある。

「ええ、そうよ」

ガラガラと扉を開け入ってきたのは、カカシとは旧知の仲であるくノ一だった。

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