▼ 1.サバイバル演習 (2/14)
奇襲も失敗し、ようやく川から這い出てきたナルトは、水中で体力を消耗したのか、かなり息があがっている。
「なんだどうした。昼までに鈴取らないと飯抜きだぞ」
「ンなの、分かってるってばよ」
「火影を越すって言ったわりに、元気ないねぇ、お前」
「くそ、くそー!!腹がへっても戦は出来るぞー!」
近づいてきたカカシに精一杯見栄を張って見せたナルトだったが、その言葉も腹が鳴っているようでは説得力の欠片もない。
と、思ったそばから続けざまにべつの場所から腹の鳴る音が聞こえ、普段は無表情な優等生であるサスケも密かに赤面した。
それもこれも、昨日カカシに騙され、律儀に朝飯を抜いたせいだ。
吐くぞと脅され朝食を控えていたのは何もナルトだけではない。
まだ足を踏み入れられてすらいなかった忍の世界、その世界の常識を盾にそう忠告されれば下忍なら誰でも怖じけづく。
しかし弱気になってこのありさまでは、相手の思い描いたシナリオに躍らされているようなものだ。
こうも空腹状態で、あの手練とまともに闘り合えるわけがない。
ただでさえ子ども相手に手を抜かない大人なのだ。
「さっきはちょっと、油断しただけだってばよー!!」
決定打を喰らっていないせいもあるが、カカシはナルトとは対照的に疲れの一つも見せていなかった。
これには負け惜しみを言うナルトも、上忍が背を向けると力が抜けたように目を伏せた。
時間配分を考えずに前半で飛ばしすぎたツケが確実に返ってきている。
予想はついていたが、ナルトの実力はこの程度だと、サスケは見切りをつけた。
次はオレがいこうか、と気持ちが急く。
だが、あの上忍はまだ隙を見せていない。
どうする、このままだと何もしないうちにタイムアップか――サスケがタイミングを推し量っていた、まさにそのときだった。
ナルトの背後で水面が揺れた。
てっきり上忍が仕掛けた罠かと思ったサスケだったが、予想は見事に裏切られる。
「忍者になるんだ!!」
地に手を着いていたナルトが急に前を見据えると、同時に水面から何かが飛び出す。
それは、ナルト自身だった。
しかも残像などではない、すべて実体だ。
「へっへーん、油断大敵ィー!お得意の多重影分身の術だってばよぉー!!」
だがカカシの方もひるまなかった。
「ご託宣並べて大見得きったところで、しょせんナルトはナルト。その術じゃまだオレはやれないよ」
ナルトの攻撃に身構えたカカシ。
その腰につけた鈴が、鳴った。
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