時空の死神 | ナノ


▼ 0.プロローグ (2/3)

「ソラ!」

名前を呼ばれたソラはとっさに窓へ視線を転じた。
薄いレースのカーテンの向こうで見慣れたシルエットが陽気に手を振っている。

「ちょっと待って、今開けるから」

ソラは横たえていた体を起こし、窓際まで近づいた。

学校から帰るなりベッドで寝てしまったらしい。
通学鞄を床に放ったまま、制服も脱いでいなかった。
しかし相手とはそんな些細なことを気兼ねする間柄でもない。

ソラの幼なじみである彼は、名前を敦史と言う。
入学式の日にソラをかばった張本人でもあった。
家が隣同士で、部屋も屋根づたいに行き来できる気軽さのせいか、敦史だけは昔からソラをごくありふれた友達として接してくれていた。

「で、教室ではどうよ」

ガラッと窓を開けると、さっそく紋切り型の挨拶が交わされる。

「相変わらず」

ソラが肩をすくめて答えると、ふうんと相槌を打って敦史が窓枠に足をかけた。

このところ、敦史は同じ質問を繰り返していた。
そしてソラも同じ返答を口にする。
入学初日のソラの答えが「相変わらず」ではなく「最悪」だったことくらいしか変化のないやり取りだ。
一度、そんなことをわざわざ聞かないでとソラが言ったが、敦史はあっけらかんとこう切り返してきた。

「でもオレ、おばさんから学校ではソラのこと頼むって言われてるし」

「私もあんたが勉強するように見張ってって、敦史のお母さんから頼まれてるんだけど」

そのときも敦史は参ったなーという表情をしただけで、持参したビデオテープを断りなしにソラの部屋のテレビにセットした。

熱心に観ているのは去年の秋頃から放送されているNARUTOというアニメだ。
最近ちょうど新章に入ったらしく、クラスでも新たな視聴者が増えているらしい。
敦史も新章からの視聴者だったが、新しく話すようになった生徒が毎週録画をしていたと聞き、こうして学校から帰ってくるや否やテープを片手にソラの部屋に直行してくるようになった。

アニメなんて、小学生じゃあるまいし。
我が物顔でベッドを陣取る敦史に、その下で枕をクッション代わりに抱えるソラは心のうちで悪態をついた。

NARUTOはうずまきナルトという落ちこぼれ忍者が、里のトップである火影の座を目指して奮闘するというストーリーだ。
他にライバルのうちはサスケ、ヒロインの春野サクラ、担当上官のはたけカカシが出てくる。
そろいもそろってキャラクターにふざけた名前のつけ方をしているのは特徴的だが、ソラにとってはありきたりな話の一つとしか思えなかった。

それなのに、NARUTOは人気だ。
しかもその人気は男子だけに留まらない。

今でこそ知らない生徒に囲まれおしとやかになってしまった女子の大半も、つい数ヶ月前までは男子も交えてNARUTOの話で盛り上がっていたのを覚えている。
放課後に公園で。
修学旅行、行き帰りの新幹線の中で。
時にはこっそり学校でも。
トランプで遊ぶグループのかたわらNARUTOのトレーディングカードで遊んでいるグループがあった光景も珍しくはなかった。

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