ミラ一行にエステルことエステリーゼが仲間に加わってからすでに30日ほど過ぎただろうか。

エステル曰く彼女はリーゼ・マクシアではない違う世界―テルカ・リュミレース―出身だという。
なんとも突拍子のない話に最初は信じられなかったジュードであったが、素直でひとところの良いエステルと時間を過ごすうちに無意識にそれは真実なのだと考えるようになった。

言動や表情の作り方が気品に満ちており、只者ではなさそうなエステルの世界のことをジュードはまだあまり知らない。
転移術式によってこちらに飛ばされただとか、そういう「事実」しかきいていなかった。

アルヴィンの用事とやらで足止めを食らっている今こそいろいろ質問するタイミングなのではないかと、流行る気持ちを抑えつつ知的好奇心に正直な医学生はエステルを呼んだ。

「ねえ、エステル」
「?何です、ジュード?」
「エステルの世界のこと、もうちょっときいてみたいなって思って。いい?」
「はい!もちろんです!」

聞き耳を立てていたであろうアルヴィン以外のメンバーも次々にエステルを囲うように近寄ってくる。

「それ!あたしもききたい!」
「はい、いいですよ。ええと、何から話せばよいでしょうか」


困ったように笑い、エステルは首を傾げる。
なにから聞こうか、と手を頭に当て考え込むジュードをよそに女性陣+ティポが興味津々、と行った感じでエステルに迫った。
ちなみにローエンは一歩外で 微笑ましそうに成り行きを見守っている。


「エステルの世界の人間には霊力野が無いと言っていたが、それでは精霊たちはどのようにしてマナを得ていたのだ?」
「えと、あの、エステルは今まで何、してたんですか?」
「向こうの楽しいお遊びとか教えてー!!」
「好きな人とかやっぱいたの!?」


とてつもない勢いにジュードは引くようにして後ずさりをした。エリーゼは控えめに発言しているが、それをティポが十二分に補ってる。


「え、えと、順番にお答えしますね」


そのみんなの様子にすこし面食らったエステルだったが、すぐに微笑んで、懐かしそうな顔をして口を開いた。

マナや万物の根源であるという、エアルの関係。
エステルの世界においての精霊。
始祖の隷長という存在。
そして、魔導器。

テルカ・リュミレースでは魔導器を使うことによってエアルを操り、魔物と渡り合える力を得たり、エネルギーを生成していた。
精霊術のようなものも武醒魔導器を通して使用することが可能で、精霊と人間の共生関係、というものは存在しなかったそうだ。ここでミラが大きく反応する。

しかしあるとき、その魔導器を行使することが世界にとって「毒」であると判明された。
魔導器は利便性が高いものなのだろうとジュードは理解した。ヒトの手の加え方しだいで武器になったり、灯りになったり、魔物を遮断する結界になったりするのだ。
人の暮らしに密接していたモノが突然禁じられる。テルカ・リュミレースにおいてはさぞかし人々の間に混乱が生じたであろう。

ジュードが一人でいろいろと頭を巡らせている間、女性陣はなおもエステルに詰め寄っていった。

「それでその魔導器とやらだが、」
「ミラずるいです」
「僕達もエステルにきくのー!!」

「ミ、ミラ、このことは話すと長くなってしまうので……また今度じっくりと、でも良いです?」
「うむ。君がそういうのなら」

苦笑いをこぼすジュードにローエンが気付く。

「悪いこと、しちゃったかな」
「何故、そう思うのでしょう?」
「ちょっと話をきこうと思っただけなんだけど。なんか、皆に火をつけちゃったみたい」


エステルを囲んで詰め寄る女性二人+αに、再度苦笑いをこぼす。


「エステルさんも楽しそうにしていますから、結果オーライでしょう」


多少押され気味のエステルであったが、思い出話を花を咲かせる彼女はとても穏やかな顔をしている。


「元の世界に、はやく返してあげたいな」
「まーたジュード君のお節介か?」


ジュードのうなじの辺りに衝撃がかかり、なすすべもなく頭が下がる。アルヴィンだ。
もはや慣れつつあるアルヴィンの腕回しにジュードは呆れたようにいう。


「用事は終わったの?」
「まあな。それより、あの嬢ちゃんを助けてやりたいって?簡単なことじゃないとオレは思うが?」
「……うん。そう、だけど。エステル、悲しそうな顔全然見せないんだよね。
絶対に心細いハズなのに。だから、なんていえばいいんだろう。なおさら放っていけないというか」
「まあ 優等生の言うとおり、事情が事情だから放置はできねえよな。別の世界、だからな」


そう宙を見上げつつ、アルヴィンは感慨深げにいう。
突如近くで湧きあがった黄色い悲鳴に男性陣はどきりとした。


「えー!その人のこともっと教えてよ!」
「あ、あの」
「レ、レイア。無理にきいたらダメ、です」
「ボクも知りたいなー!どーいう人なの!?」
「ティ、ティポ!駄目ですよ!」
「ミラもエステルの恋人のこと、ききたいよね!!」
「事実は小説より奇なりというしな。是非きいてみたいものだ」

「こ、ここ恋人!?そ、そそそそういうのではなくてですね、えと」


恋バナか、とニヤけるアルヴィンと食えない笑みを浮かべるローエンの横でジュードは癖になりつつある苦笑いをこぼした。






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