サイドテーブルに座らせたランプの灯りが、天蓋からぶら下げたミモザと、その隣に並べたばかりのデイジーを照らしている。魔法省から一番近い花屋の店先にスノードロップが並んでいなかったことが何よりの幸運だったということを、父さんは知らないだろう。コッカリーキパイを切り分けながら父さんを迎えた母さんの後ろで、顔を見合わせてくすくすと笑っていたトムと私を、デイジーと臓物キャンディの袋を抱えた父さんは不思議そうに見ていた。


「スノードロップじゃあなくて、良かったわ……」


窓を半分だけ開けて、窓枠に肘をつく。外にはもう夜が横たわっていて、風は昼間の丘よりも優しいが、冷たい。梟の鳴き声に追いかけられるようにして部屋へと逃げ込んできた弱い風が、前髪をそろりと撫で上げた。
今は、何時だろうか。もう少し待てば、時計の短針と長針は真っ直ぐ真上を向く頃だろうか。窓の隙間からほんの少し顔を覗かせて、隣の部屋の灯りを確かめてみる。揃いのランプの灯りが、そこに揺れているのが見えた。


「……………………」


頬杖をついて、ベッドの上、枕の下に隠したそれを視線だけで振り返る。真っ白い枕の下に隠れて見えない筈のカメリア色が、瞬きをする度に瞼の裏側に浮かんで見えた気がして、私は音にならない口笛を吹くように細く息を吐いた。
バースデー・カードを貰えたことを、喜ぶべきなのだろう。魔女の好きそうな鮮やかなカメリア色のカードを魔法使いが買ってきた上に、もしかすると他の誰かから譲って貰ったものだとしても、それを直接魔女に手渡すことは、恐らくとても、魔法使いによってはトロールに立ち向かうよりも勇気のいることだ。そして、名前も知らないような、そんな関係の魔女相手なら、尚更のこと。
それを想像出来ない、訳じゃあないのに。


「喜ばなくちゃ、いけないわ……」


素直に喜べないのは、何故なのだろうか。もしもこのカメリア色を、明日の昼間に梟が運んできてさえいれば、私は素直に喜べたのだろうか。
嫌な、魔女だ。額に触れて、頭を振る。嬉しくない訳じゃあ、ないのだ。だけれど私は、そのカメリア色を得意気に見せることが、どうしたって出来そうになかった。トムには見せてはいけないと、何故なのかは分からない、だけれどそう、思っていた。


「…………でも、誰なんだろう」


見覚えが、あるような。だけれどそれも、気のせいのような。
意味もなく、左手で背中を撫でる。風に冷やされた髪が触れて、毛先を指先に巻き付ける。直ぐにほどけたそれは、ハニーブラウンよりも色の濃い、父さんによく似たダークブラウンだった。


「……母さんに、叱られるわ」


半分開けた窓を閉めて、ベッドに背中から倒れ込む。これ以上風にあたって風邪でもひけば、母さんは私をベッドの上から離れられないように魔法をかけて、何故窓を開けていたのかと一晩中叱りつけるだろう。
コッカリーキパイを、食べ過ぎたのかもしれない。ふた切れ目はトムの言う通り、半分に分けて食べた方が良かったのだろう。お腹の辺りが重く感じて、両手でそこを撫でる。手のひらの温もりが、じわじわとお腹から首へとのぼって、瞼まで重くした。


「寝ちゃ、駄目だわ。まだ、起きていなくちゃあ、……いけないわ」


だって、日付が変わったその瞬間に、トムはきっと、ドアをノックする筈なのだから。ミモザでもデイジーでもない、スノードロップの花を持って。
きちんと約束をした訳ではない、だけれど確かな予感に、寝てはならないと寝返りを打つ。閉めた筈の窓は、きちんと閉まっていなかったらしい。隙間から冷たい風が吹き込んで、天蓋からぶら下げたミモザとデイジーをさらさらと揺らす。芝を撫でていく風の音が、夜の中を歩き回っていた。


「ニナ」


そうして、夜の中を歩き回るそれに足音を上手に隠した魔法使いがドアをノックしたのは、その時だ。


「誕生日おめでとう、ニナ」


静かに開いたドアの向こうから、時計の短針と長針が真っ直ぐ真上を向いたことを報せる音が入り込んでくる。
ランプを右手に、そうしてスノードロップを背中にに隠し持った魔法使いが、トムが、穏やかな笑みを浮かべてそこにいた。







「こんなに沢山、いつ摘んだの?だって、だって、昼間はずっと、私といたでしょう?一緒にビスケットを食べて、ホットチョコレートも飲んで、隣で本を読んでいたわ。そうでしょう?」

「さあ、いつだろうね?」

「それに、ほらね、言ったでしょう?やっぱりだわ、凄く素敵なリボン!サフランイエローね?サフランイエローだわっ」

「そんなに喜んで貰えるとは思わなかったよ」

「本当に?本当に、思わなかった?私が喜ぶって、想像出来なかった?」

「……本当は、ニナならきっと喜ぶだろうって、想像しながら選んだよ」


ベッドの上で、まるで小さな子供のようだ、ニナが脚をばたつかせればベッドが揺れて、ぎしぎしと床が軋む。その音に、キッチンで誕生日の特別なパイやケーキの支度をしているハツや、寝室で週刊ゴブリンを読んでいるダンが気付かない筈がないだろう。だが、それに気付かないふりをするのが、誕生日を迎えた魔女を子に持つ親の仕事だった。恐らくのところ、明日の朝にたった一言、夜は静かに過ごすものだと言われるだけだ。
スノードロップの花に結んだサテンのリボンを、ニナが撫でる。ミセス・ベジグルの店へ行くついでにとニナには秘密でハツに頼んでおいたサフランイエローのそれは、陽に当たるとミルクに浸したような白に変わるらしい。明日の朝、ベッドサイドに置いたリボンの色が違うことに気付いたニナを想像して、僕はニナに気付かれないように小さく笑った。目を覚ましたばかりのニナは、驚きのあまりベッドから飛び起きるだろう。


「気に入ってくれた?」

「うんっ、勿論、本当に、凄く気に入ったわ!」


ただ、僕が想像していたよりもずっと喜んだニナの姿に、僕の方が先に驚かされてしまったが。
スノードロップに鼻先を寄せて、ニナが瞼を下ろす。窓が開いているのだろうか、ランプの火が揺れて、オレンジ色の灯りがニナの頬を撫でるように動いて見えた。


「ニナ、」


彼女の父親によく似た、ダークブラウンの瞳が僕を見る。灯りをなぞるように頬に手を伸ばせば、ニナはそれを避けることもせず、当たり前のようにそこで待っていた。


「……誕生日、おめでとう、ニナ」


僕の指先が冷えていたことを知ったのは、ニナの頬があたたかいせいだった。


「ふふっ、トム、さっきも聞いたわ」

「うん、さっきも言った」

「でも、嬉しい。ありがとう、トム」


睫毛が、影を作る。その下で笑うブラウンの瞳が、僕を見ていた。
あの夜と、クリスマスの夜と同じ、穏やかな瞳が。バレンタインの夜と同じ、何も知らない瞳が、僕を見ていた。


「…………トム?」


カメリア色のカードを、ニナは何処に隠したのだろうか。ニナよりも明るい髪色をしたあの魔法使いは、誰なのだろうか。ニナはあの魔法使いのことを、どう、思っているのだろうか。
喉の奥が苦くて、唾を飲む。頬に触れていた僕の手にニナの手が重なって、突然黙り込んだ僕を心配したのだ、ニナはベッドの縁に座る僕の顔を覗き込んだ。


「トム、どうかしたの?」


僕は、ニナを呪ってはいけない。僕は、弟の顔をして、笑っていなければならない。
カメリア色のカードを燃やして、その送り主を酷い目に合わせてやりたいと考える僕は、弟の顔を、してはいなかった。カメリア色を見つけてしまったあの時から、ずっと。


「……誕生日を祝えて良かったって、そう、思って」


僕よりもまだ少し大きな手を、握る。僕よりもあたたかい指先が、手のひらの中で震えた気がした。
カメリア色のバースデー・カードの存在を知っているということを、ニナに知られてはならない。一番に祝えて良かったと言うつもりだった歪んだ舌を、なんて酷く嫌な臭いのする言葉だろうか、僕はどうにか喉の奥に追いやって、目を細めて笑ってみせた。ダークブラウンの瞳は僕を真似るように細められて、それから、何故なのだろうか、俯いてしまった。


「そうだ、ニナ。君のために、キャロットケーキを焼いたんだ」

「…………トムが?キャロットケーキを?」

「そうだよ。だって、テーブルの上にケーキやパイが沢山並んでいるのが、ニナは好きだよね?」

「うん、好きだわ、とっても、でも、トム、トムが?」

「イースターで、誕生日だから、特別にハツに教わったんだ。明日の朝には、僕のキャロットケーキと、ハツが焼いたパイが並ぶからね」


それがこの家のイースターで、君の誕生日だ。
誰に言い聞かせているのか。ゆっくりと言葉を吐き出して、俯いた顔をどうにか上げさせようと、まるで慰めるようにニナの手をゆらゆらと揺らす。キッチンの戸棚に隠したキャロットケーキは、ニナが焼くよりも甘くはないのだろう。それでも美味しいと言って誰よりも多く食べてくれるだろうことを、僕は分かっていた。
彼女は、ニナは、僕を悲しませることはしない。弟を悲しませることは、しない。そして僕もまた同じように、そうあるべきだ。


「…………あのね、トム、」


スノードロップの花を枕のそばに置いて、ニナが僕の名前を呼ぶ。奥歯に声が引っ掛かったかのような、どうにか絞りだしたような掠れた声でも、僕はニナの声を取り零しはしなかった。


「うん、何?」

「…………あのね、私ね、私、」


ダークブラウンの瞳が、僕を見ている。
心臓がざらりとした何かに撫でられたような気がしたのは、空いたニナの左手が、枕の下からそれを、カメリア色を引っ張り出したからだった。


「それ、」


僕は今、どんな顔をしているのだろうか。鏡はなく、窓は遠い。心臓は馬鹿になってしまったようで、速く、五月蝿く、重かった。
バースデー・カードを貰ったのだと、ニナは得意気に笑うのだろうか。僕の知らない魔法使いの名前を呼んで、カードの模様を僕に見せるのだろうか。一瞬の内に目の前が赤くなって、それがランプの灯りが揺れたせいではないことを、僕は分かっていなかった。
弟の顔をしようとしていた僕は、今、どんな顔をしているのだろうか。鏡は、ない。窓は、遠い。目の前には、ニナの顔が、あった。


「バースデー・カードを、貰ったの、」


しかし、何故だ、ニナの顔はちっとも嬉しそうではなく、おかしなことに、酷く雨にうたれた後のような、買ったばかりのスカートを濡らしてしまったかのような、そんな顔を、していたのだ。
今日は、他の誰でもない、ニナが一番に幸せでなければならない日だというのに。


「わ、私、」

「……ニナ?」

「……私、は、」


呼べば、ニナは視線をさ迷わせ、結局それを何処に置いておけばいいのか、何を見ればいいのか、分からなかったのだ。きつく目を閉じたかと思えば、まるでこれから叫ぶのだと言わんばかりに息を吸い込んで、そして、吐き出した。


「私は、私はっ、バースデー・カードより、トムのサテンのリボンの方が嬉しいわ!」


あまりに勢いのある大きな声に、僕は何故だか、グリフィンドールの魔法使いの言葉を思い出す。君の姉さんがあのブラックを倒したという、全く関係のない言葉を。


「本当だわ、本当に、嬉しいの、」

「ニナ、」

「父さんのミモザより、デイジーより、トムに貰ったスノードロップの方が、ずっと嬉しいし、母さんが焼いてくれるパイより、トムが焼いてくれたキャロットケーキの方が、嬉しいわ、本当に、嬉しいのっ……!一番に、一番、嬉しいのにっ……」


まるでずっと、奥にきつく押し込んで、栓をしていたかのような。勢いよく言葉が吐き出されて、最後は酷く、か細かった。
嵐が去ったことを確かめるかのように、ニナはそうっと瞼を開けて、まるで僕が嵐そのものだったと言いたげな目で僕を見る。何をそんなに、必死になることがあるのだろうか。気が付けばニナは泣きそうな顔をしていて、目尻は赤い。握っていた筈の手はほどかれ、そこから何かが飛び出してくるのだとでもいうように、きつく胸を押さえていた。


「……ああ!言っちゃったわ、言っちゃった!」


そして、殆んど叫ぶような声でそう言って、ニナは頭を抱えた。
ニナは今、何を言ったのだろうか。僕は、何を言われたのだろうか。確かに左右の耳で聞いた筈の言葉が頭の真ん中、その奥を揺さぶって、思い出そうとしても上手く引っ張り出してくることが出来ず、瞼の裏側が奇妙にも眩しい。喉が渇いた感覚に、ひとつ咳がこぼれて、しかし、不愉快ではなかった。
こんなにも取り乱したニナを、僕はもしかすると、初めて見たかもしれなかった。
それも、僕のことで、取り乱したニナを。


「私、嫌な魔女だわ、酷い魔女だわ、折角カードをくれたのに、私、どうしてこんなに、ああっ、本当に嫌な魔女だわっ……!」

「……そんなに後悔するくらいなら、言わなければ良かったのに」

「だって、言わなくちゃって、思ったんだものっ……、」

「言わなくちゃって、どうして」

「わ、分からないわ、分からない、でも、だって、思ったんだもの、」


頭を抱えたまま眉を下げて、ニナが僕を見る。とんでもないことを言ってしまったと俯いた彼女は、誰が見ても憐れむだろう。それ程に酷く重い後悔を背負った顔をしていた。
ず、と、鼻を啜る音がして、まさか本当に泣いているのかと目を丸くする。顔を覗き込もうと肩に手を乗せようとした僕に、ニナは気付いたのかもしれない。僕が顔を覗き込むよりも早く、ニナはそろりと顔を上げて、しかし、僕の目を見ることはしなかった。


「トムに、一番に祝って欲しかったって、ずっと、思ってたんだものっ……」


でも、きっと、困らせるだけでしょう?
赤らんだ目尻に光るものを、ニナの人差し指が拭う。困らせると思っていながらそれを口にしたニナは、成る程、確かに酷く重い後悔を背負っているに違いなかった。何せ彼女は、僕の知る限り誰よりも優しく、公平な、人を困らせようと企むことをしない、僕とは正反対の、如何にもハッフルパフらしい魔女だった。
勿論、僕は彼女以外の魔女をちっとも知りはしないし、これから先も、知るつもりはなかったが。


「………………」

「嫌な魔女だわ、私、こんな、我が儘、言うつもりは、本当に、」


天蓋からぶら下がるミモザとデイジーを見上げて、僕は静かに息を吐く。ざらりとした何かに撫でられた心臓は、いつの間にか落ち着きを取り戻していて、何食わぬ顔をしてそこに収まっている。
ニナは僕の事を、好きだ。自惚れでも何でもなく、それはひとつの事実として確かに存在していて、僕はそれを認めていた。ただ、僕のそれとは違うのだろうニナのそれに、どんな形をしているのかが見えないそれに、僕はずっと、怯えていたのだ。


「……ニナ、今日は、何の日?」


しかしそれは本当に、違うのだろうか。全く同じ形をしていないのは、勿論分かっている。しかしそれでも、僕のそれと、ほんの少しでも、似ていたりしないだろうか。
ニナの肩を撫でて、精一杯、穏やかな声色で名前を呼ぶ。ベッドの縁を見て、シーツの皺を見て、ミモザを見上げて、ニナは視線を彼方此方へと泳がせた。


「……何の日って」

「答えて。今日は、君の?」

「……私の、誕生日」

「そうだよ、正解。それで、君の誕生日に、一番に会いに来たのは?」

「…………トムだわ」

「うん、そうだ、僕だよ、ニナ」


泳ぎ疲れた視線が、助けを求めるように僕を見る。もう大丈夫だと肩を優しく撫でれば、ニナは胸を押さえていた手を膝の上に下ろして、それから何かを確かめるようにゆっくりと手のひらを握った。そこに何があるのか、分からない。僕の黒い目には見えない何かが、ニナのダークブラウンを通せば見えるのだろうか。


「それから、君の誕生日に、一番におめでとうと言ったのは?」


首を傾けて、ニナを見る。瞬きをすれば、ニナも同じように瞬きをして、口角を上げて見せれば、ニナの唇がやわらかくゆるんだ。


「……トムだわ。トムが、一番だわ」


焦げた臭いのする、真っ黒いそれに、ほんの少しでも似ていればいい。僕よりもやわらかな形をしていても、小さくても構わない。だけれど、ほんの少しでも、僕がニナを想うような、酷く嫌な臭いのするそれにひと匙分でも似ていれば、僕はそれで充分だ。
僕はそれで、まだもう少し、弟の顔をしていられる。姉の誕生日を特別にしようとする弟の顔を、していられるのだ。
僕は、ニナのことを呪わずにいられるのだ。


「そうだよ、僕が、一番だ」


足元を、踵で確かめる。崩れる筈のない足元が、埃ひとつないよく磨かれたラヴィー家の床が、そこにあった。


「どう?これで少しは、嫌な魔女の気分から遠ざかれそう?」

「……うん、うん、平気、もう、大丈夫だわ。ありがとう、トム」

「別に、何も。……それよりそのカード、誰から貰ったの?いつも一緒にいる魔法使い?」

「これ?ううん、ヒューもサミュエルも、休暇が明けたらお祝いしてくれる約束だから。くれた魔法使いは、……知らない魔法使いなの」

「知らない魔法使い?」

「うん、そう、知らない魔法使い」


カメリア色のカードを指差せば、ニナはそれを手に首を振る。本当は見ていたのだとは言わないまま素知らぬ顔をして、僕は頬をゆるめた。ニナはあまり、嘘が上手くない。ニナは今、嘘を吐いてはいない。
カメリア色のバースデー・カードの魔法使いは、名前も知られていない魔法使いだった。


「折角だから、飾りなよ。枕の下に隠さずに」

「……うん、そうするわ」

「でも、僕の贈り物より目立たないように飾ってね」

「ええっ?ふふっ、うん、そうね、そうするわ」


ふふふ、と鼻歌でも歌うかのように笑って、ニナがスノードロップに手を伸ばす。甘い、春に相応しい匂いのそれを、ニナは今夜、夢に見るだろう。そしてそこにカメリア色がほんの一瞬でも現れないことを、僕は祈らなくてはならない。


「……ニナ、もう一度言ってもいい?」

「うん?なあに?」

「誕生日、おめでとう」


睫毛が、影を作る。嬉しそうに細められた瞳の下で、頬が薄く色付いて、そこにキスをしたくて仕方がなかった僕がいたことを、ニナは知らないのだろう。ありがとうと囁くように言ったニナが、代わりのように僕の頬に唇を寄せたので、僕は素直にそれを受け入れた。
クリスマスの夜とも、バレンタインの夜とも違う。静かに微睡む空気が、夜の中に溶けていた。



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