「ブラック、貴方はもうカードを用意したの?」


魔法使いを睨むような目で見ていた、そうでなければまるでそこにいることさえ認めないという態度をとっていた魔女達は、悲しいことにスニジェットの如く絶滅危惧種になってしまったらしかった。
クリスマスと共にあの魔女達は消えてしまったのだろうか。前の席に座っていた、名前も思い出せないブロンドの髪をした魔女が、彼女は確かグリーングラスの親戚だっただろうか、まるで昔からの友人だったかのように声を掛けてくる。ビンズ先生の退屈な授業に、もう半分の生徒が寝てしまった教室では、いくら声を抑えても魔女の高い声は少し響く。
たったの一週間と少しの休暇で、何が違ってしまったのだろうか。


「買ってない」

「なによ、素っ気ないのね。そんなんじゃあ魔女に人気がない筈だわ」

「そもそも、クリスマスは終わったんだから、何だって今更カードなんか」

「あら、呆れたわ。貴方って何にも分かっていないのね」


派手好きのグリーングラスの親戚らしく、目立つブロンドにぎらぎらとした銀の飾りをくっ付けた頭を睨めば、彼女は何を勘違いしたのか、素敵でしょう、と得意気に鼻を高くする。恐らくのところ、銀のそれは魔女の間では流行りのそれなのだろうが、俺からすれば弱そうな牡鹿の角にしか見えないので、大人しく奥歯を噛み合わせる。こういう時に素直な言葉を吐き出した魔法使いの末路を、俺は嫌というほどに知っていた。何せ、俺よりもたったの一年早く生まれただけの魔女が、ブラック家には住み着いているのだから。一度機嫌を損ねた魔女は、腹を空かせたドラゴンのようにしつこいものだ。
ビンズ先生の抑揚のない、まるで古い魔法を唱えるような声に、欠伸をする。わ、と大きく口をあければ、品がない、とブロンドの魔女が眉を寄せたので、放っておいてくれ、と俺も眉を寄せた。


「カードといい欠伸といい、貴方それでも本当に紳士なの?」

「俺は紳士じゃあなくて魔法使いだし、そもそもそんなくだらないものになるつもりなんてないさ」

「それじゃあ、何になるっていうのよ」

「ドラゴン使い」

「ばっ……」


馬鹿みたい、という言葉を飲み込んだ音が聞こえたのは、俺だけじゃあなかった。
馬鹿だってよ、と笑ったのはグリフィンドールの魔法使いだ。一番前の席、まだ起きていた魔法使いが、わざとらしくとぼけた顔を見せてくる。それに舌を出して返せば、ブロンドの魔女が呆れたように肩をすくめてため息を吐いた。俺は、魔女がみせる、自分だけは大人なのだといった態度がどうにも好きじゃあなかった。


「それで、リドルはどうなの?」


魔女の言葉に肩を揺らしたのは、トムじゃあない、通路を挟んだ隣の席に座る魔女だった。
羽根ペンの先が、床にかつんとぶつかる音がする。静かなそれに誰も起きはしなかったが、俺は視線をそちらに向ける。背中を丸めたグリフィンドールの魔女が、トロールのようにゆっくりとした動きで羽根ペンを拾い上げていた。


「……ちょっと、リドル、リドルってば」

「……あ、なに?ごめん、聞いてなかった」

「珍しいわね、寝惚けてるの?カードよ、カード。貴方は紳士だから、用意したんでしょう?」


魔女の目玉は、こんな形だっただろうか。
魔法使いと変わらない筈の目玉が、不思議と真夜中の梟のように怪しいものに思えて、俺は頬杖をついてそれを眺める。俺を見ようとしないその目玉の先には、カード、と首を傾げるトムがいて、トムは羽根ペンを持ったままインク瓶の蓋を撫でる。銀色の蛇が巻き付いたそれは、如何にもスリザリンだった。


「そういえば、もうそんな季節だったね」

「やっぱり、リドルは分かってるわよね。それで、勿論用意はしてるんでしょう?」

「さあ、どうだろう」

「あら、平気よ、まさか私が貰えるなんて思ってないわ。だから心配しないで。用意したかどうかだけ教えてよ、ねえ」

「……まだ、迷ってるところだよ」


かつん、と、あの魔女は何度羽根ペンを落とすのか、ペン先が床に落ちる音が響いた。


「それだけ聞けたら満足だわ。ありがとう、リドル」

「こんな事を訊いてどうするつもりなんだい?魔女ってやつは」

「誰が誰にカードを貰ったのか予想して楽しむのよ、ブラックってば、本当に分かってないのね」


もう話は終わりだ、と、きっと初めから俺じゃあなくトムに興味があっただけなのだ、魔女は俺の嫌いな笑みを浮かべて、それきり前を向いたので、俺は頬杖をついたままブロンドの後ろ頭を睨み付ける。弱そうな牡鹿の角にしか見えない、と小声で呟いてやろうかと思ったけれど、直ぐに口を閉ざした。それを言葉にしてしまえば、それこそ俺は魔女の取る、自分だけは大人なのだという態度に相応しい魔法使いになってしまうからだ。
机に突っ伏して、隣の席、トムを見る。珍しいことに、ぼんやりと瞼を伏せた魔法使いがそこにいて、俺は教科書を枕にしながら瞬きをした。


「トム、珍しいね、眠いのかい?」

「え、……いや、そう見えた?」

「いつもよりぼうっとしているようには見えたね。違うのかい?」

「……考え事をしてたんだ」


何を、とは言わずに、トムは羽根ペンを動かして、教科書にペン先を走らせる。この教室で羽根ペンをまともに動かしているのは、間違いなくトムだけだった。
わ、と、欠伸をひとつ。品がないらしいそれを隠すこともせずに、ローブのフードを被る。暗くなった視界の中で、ビンズ先生の退屈な声が遠ざかっていくのを感じた。


「……トム、授業が終わったら、俺を起こしてくれるね?」

「僕が君を起こさなかった事はないよ。君が起きなかった事はあったけど」

「あまり意地の悪いことを言わないでおくれよ、紳士じゃないなあ……」

「君だってそうだ、ドラゴン使いのアルファード・ブラック」

「わあお、いいね、良い響きだ、ドラゴン使いのブラック……ドラゴン・キーパーのブラック……」


ブロンドの魔女とのやり取りを、トムは聞いていたらしかった。
それじゃあ何故、何だって彼は、魔女の問い掛けに直ぐに答えなかったのだろうか。聞いていなかったなどと、言ったのだろうか。
重くなる瞼を薄く開けて、トムを見る。整った横顔というものは、似てくるものなのだろう。アルヴィ・エインズワースさんと似た真っ直ぐな鼻筋を下から眺めながら、俺はトムの脇腹をとんと叩いた。俺と同じ、真っ黒い視線が俺を見下ろした。


「…………俺は、君が上手くいくように祈っているよ、いつも」

「……眠いのは僕じゃなくて君だろ」

「冗談じゃあないよ、俺は真面目に、至って真剣に……」


ああ、そうか、そうだった。
言いながら、瞼の重さに耐えきれず、目を閉じる。ビンズ先生の退屈な声は、いよいよ遠く、聞こえなくなっていた。


「俺は、二度と君を裏切る真似はしないと誓うよ……」


ぼそぼそと、譫言のような呟きが、トムには聞こえたのだろうか。フードの上から小さな笑い声が聞こえた気がしたのは、夢なのだろうか。瞼の裏側では、趣味の悪い真っ赤なリボンのついたカードが踊るように飛んでいた。
そうだ、そうだった、確かもうすぐ、バレンタインだった。


「君は本当に、単純な魔法使いだ」


トムは今年も、姉に、ニナに、カードを送るのだろうか。
君は姉さんに贈らないのかと、トムが俺に訊いたことがあった。その時のトムの顔を、俺は思い出せない。何せここはもう夢の中で、俺の目の前には身に覚えのない、趣味の悪いカードが俺を取り囲うように飛んでいたのだから。


「……悪かったよ、アルファード」


真っ赤なリボンに、派手すぎる大きなレースの模様。妖精の絵が描かれたカードは、一番忙しなく飛び回っていた。





「ほら、あの魔女よ、あの子よ。長い髪の」

「あの子って、あら、ビーターの?それじゃあ、相手は隣にいる……」

「それが違うらしいのよ、どうにもね、」


魔女のくすくす笑いが聞こえた気がして、ふと、歩く足を止める。後ろを振り返れば、そこにあるのは廊下の壁と、そこに飾られた愛想の悪い魔法使いの絵画だけで、誰もいない。ただ、廊下の角のその向こうからは、魔女の軽い足音が響いていた。


「ニナ、どうかしたの?」

「やっぱり僕が変わろうか?」

「ううん、平気よ、大丈夫。ありがとう」


名前を呼ばれて、前を向く。心配そうな顔をしたのはミネルバとサミュエルで、二人はそれぞれに私と、それからヒューの鞄を持っていた。そうして鞄を持っていない私の左手は、ヒューの右腕に絡まっている。
もう一度詳しく、マダム・ペペに診てもらうべきだろう。そう言ったのはミネルバでも、サミュエルでもない、ビーリー先生だった。どの授業も眠ってしまって話にならないと、他の先生から聞かされたらしいビーリー先生は、まるで自分の子供のように酷くヒューのことを心配していて、この後に一年生の薬草学の授業が入っていなければ、彼が背負ってヒューを医務室に連れていっていたことだろう。もしくは温室にある薬草を右から左まで全てかき集めて、魔法薬に煎じてしまっていたはずだった。ビーリー先生はそれほどに、ヒューを心配していた様子だったのだ。
ヒューの右腕を、肩に回す。空いた左手を彼の背中に回せば、ヒューは眠たいのか、私の肩に額を寄せた。


「ヒュー、もう少しだからね」

「……ん」


あのヒューが、マグル学の授業にも出られないだなんて、本当の本当に、酷いことだ。
授業の始まりを報せる鐘が、壁を伝って、足裏まで低く響く。今頃マグル学の教室に座っている筈のヒューの瞼はすっかり閉じてしまっていて、それでも時折開こうとはしているらしい、ぎゅ、と力が入り、眉間には皺が寄せられた。


「先に行って担架を貰ってきましょう。それか、誰か上級生に……」

「ニナ、やっぱり僕が……」

「ううん、いいの、だって、もう皆授業だろうし、それに、サミュエルはとっても背が高いから、腕を組み辛いでしょう?」

「あらニナ、その言い方だと……」

「……俺は、そんなに、小さくない……」

「あっ、ご、ごめんね、ごめんなさい、そういう訳じゃあないの、ヒュー」


ごめんね、と、繰り返せば、もう怒るだけの気力もないのだ、ヒューは何も言い返すことはせずに、黙ってしまう。そんな彼が心配で、フードに半分も隠れた彼の顔を思わず三人で覗き込んだことを、ヒューだけが知らなかった。


「そういえばマクゴナガル、君、授業はよかったの?」

「マグル学は取る必要がないもの」

「あれ、そうだった?全部の授業をとってるものだとばかり思ってたよ」

「初めはそうしようと思っていたけれど、今年から占い学はやめたわ。それにそもそも、マグル学は取る必要がないもの」

「占い学はやめたんだ?」

「ええ、くだらない授業だったわ、とってもね」


ふん、と鼻を鳴らしたミネルバに、サミュエルが苦く笑う。彼女と占い学は、相性が良くはなかったらしかった。
ヒューの足が、ゆるゆると歩く。それに合わせるようにゆっくりと歩いていれば、やっぱり、とミネルバが声をあげた。


「やっぱり、担架を貰ってくるわ。これじゃあいつまで経っても医務室に辿り着かないもの。ニナ、あなた、この辺りで待っててくれる?」

「え、でも、」

「メイフィールド、担架を運ぶのを手伝ってちょうだい」

「僕が?」

「貴方まさか、私一人に担架を運ばせるつもりなの?行くわよ、はやく!」

「いや、そんなことは……ニナ、行ってくるよ」


私が何かを言うより早く、ミネルバはとても足がはやい、びゅんと箒のように廊下を駆けていってしまったので、そんなミネルバをサミュエルが慌てて追いかけていく。
鞄を、置いていってくれてもよかったのに。ローブの内ポケットに入れていた杖だけでは、どこか心細い。ヒューの身体を支えながら、私はそろりと辺りを見回した。何処かに、腰を下ろした方が良いだろうか。


「ヒュー、何処かに座る?」

「…………」

「ヒュー?」


返事をする気力がないことは、分かっていた。それでも、眉間に皺を寄せるなり、睫毛を揺らすなり、囁くような寝息のひとつが、返ってくると思っていた。
あんまりに、静かだ。


「……ヒュー?」


肩に触れる額を、確かめる。フードを被っているせいで、顔が見えない。半分だけ覗く薄い唇は、白かった。


「え、ヒュー、ヒュー?だい、大丈夫っ?」


恐ろしいものを見てしまったような気がして、それを誤魔化すように名前を呼ぶ。だけれど、彼は返事を寄越せないのだから、私は余計に酷く恐ろしくなってしまって、喉の奥で息が引っ掛かってしまった。
どうしよう。ヒューが、どうしよう、こんなにも体調が悪いだなんて。


「ヒュー、ま、待ってね、今どこかに、座って、直ぐにミネルバが、サミュエルと、戻ってくるから、」


後ろには、愛想の悪い魔法使いの絵画が一枚。前を向けば、廊下がずっと続いていて、その先に曲がり角があるだけだ。
こんな時は、どうすれば良かったのだったか。誰かを大声で呼べば、来てくれるだろうか。浮遊呪文で、運べるだろうか。でも、だけれど、誰も来なかったら、意味がない。誤って落としてしまったら、怪我をさせてしまうだけだ。
どうすれば、いいのだろうか。考えて、奥歯が震える。足の裏側からひんやりと嫌な寒気が這い上がってくるような感覚に、私はヒューのローブをきつく握った。肩に触れるヒューの額は、熱くはなかった。
熱く、なかった。


「ど、何処かに、座って、何処でも、」


ヒューの背中は、冷たかった。


「廊下の真ん中に立つな、ラヴィー」


ぼろりとひとつ、涙が出たのは、その冷たさが酷く、恐ろしいせいだった。
振り返れば、いつからそこにいたのか、愛想の悪い魔法使いの絵画じゃあなく、本物の魔法使いがそこに立っていた。
愛想の悪い顔をした、ニガヨモギを舌の上にのせたような顔をしたマルフォイが、そこに立っていた。
目を丸くしたマルフォイが、瞬きをする。そうして、彼は決して頭の悪い魔法使いじゃあなかった、直ぐにヒューの顔を覗き込んで、私とは逆側、彼の左腕を自分の肩に回した。


「いつからだ?」

「さ、さっき、急に、さっきまで、返事はあったのに、」

「分かった。大丈夫だ、ラヴィー、大丈夫」


ヒューの背中に触れていた私の手に、マルフォイの手が重なる。ヒューの背中が冷たかったのか、私の手が熱かったのか、今では分からない。ローブ越しだったせいで、冷たく感じただけだったのかもしれない。
マルフォイの手は、ヒューの背中よりも冷たかったのに、何故だか汗ばんでいた。
大丈夫だなんて、どうして言えるのだろう。返事のないヒューを殆んど引き摺るようにして歩きながら、マルフォイは真っ直ぐ前を向いている。


「大丈夫だから、泣くな」


涙が出たのは、たったの一度なのに。
はしたなく鼻をすすって、ヒューの腕を肩に回し直す。私の歩幅に合わせているのか、そうじゃあないのか、マルフォイの足音は、私の足音に重なって聞こえた。


「泣いてないわ、吃驚しただけだわ、驚いただけだもの」

「そうか」


遠くから此方へと、ばたばたと駆ける足音が聞こえて、私はまた鼻をすする。汚いな、と棘を吐いたのはマルフォイで、私はわざとまた鼻をすすった。


「ニナ、持ってきた、持ってきたわ!やだ、ガーランドどうし、……マルフォイ!」

「ヒュー、どうしたの?ニナ、何かあったの?」

「へ、返事がなくって、それに、何だか、唇も真っ白で、」


担架を持ったふたりの魔女と魔法使いが、マダム・ペペを引き連れて廊下の角から現れる。マダムの足は、廊下を走り回るために出来ていない。少し遅れて駆けてきた彼女はうっすらと汗をかいていて、だけれど息は切れていなかった。


「あらあらまあ!いけない!さあ、担架に乗せて、そうっとですよ、そうっと!さあ、紳士の二人、運んで、運んで!」

「えっ、また僕が」

「当たり前でしょう!浮遊呪文は人に向けるものじゃあありません!大丈夫ですよ、この担架は殆んど重くなかったでしょう?」


廊下に置かれた担架に、ヒューを寝かせる。真っ白な唇は薄く開いてはいたけれど、何かを呟くことはなかった。
マダム・ペペが、急かすように手を叩く。それに担架を持ち上げようとしたのはサミュエル、たったのひとりで、マダム・ペペはまあ!と甲高い声を上げて彼、マルフォイを見た。


「ミスター・マルフォイ、貴方は自分が紳士ではないと認めるということですか!」

「いや、僕は図書室に、」

「ミスター・マルフォイ!」

「…………何だって、僕が」


マルフォイの言葉に頷いたのは、ミネルバだった。
はやく!と、マダムがふたりの魔法使いのお尻を叩き、マルフォイは青白い顔を赤くさせてマダムを睨み付ける。私はそんな彼を見ながら、自分の左腕にミネルバの両手が絡むのを黙って受け入れた。
マダム・ペペの後を追って、ヒューを乗せた担架が静かに、だけれどはやく、廊下を駆けていく。真っ白な顔をしたヒューに、私は喉の奥が痛くなる。
ヒューは、大丈夫だろうか。ヒューは、一体どうしてしまったのだろうか。


「……ニナ」


ミネルバの右手が、私の左手をつかまえる。行きましょう、と言うように歩きだした彼女に足並みを揃えて、私はミネルバの横顔を見上げた。


「……どうして、マルフォイが?」

「た、たまたま、偶然、通り掛かって」

「……そう。そうなの……」


一体全体、何が起こっているのか。
分からない、と呟いたミネルバに、私は自分の手のひらが汗をかいていたことに気付いて、手を離したくなる。しかし、ミネルバは決してそれを許してはくれず、逃げようとした私の手をきつく握りしめた。
何が起こっているのか、私にだって、分からない。ヒューは何だって、あんなことになっているのだろうか。一体何をすれば、元に戻るのだろうか。


「……はやく、医務室に行きましょう。心配だわ」

「うん、」


ミネルバの細い腕が、私を引っ張る。私は落ち着きを取り戻せない頭で、真っ白な唇や、熱くない額や背中を、繰り返し思い出していた。
そうしてそれから、しゃらしゃらと音のする、クロムグリーンのドレスローブの内側を。


「薬が、今度こそ効くと良いんだけれど」

「……うん」


大丈夫だと、そう言ったマルフォイの横顔を、思い出す。私はミネルバの手を握り返しながら、静かに鼻をすすって、空いた手で耳をおさえてみる。
喉の奥にあった痛みが、いつの間にか消えていた。


「……大丈夫だわ。きっと、良くなるわ」

「……ええ、そうね。ニナの言う通りだわ」


ふたり分の魔女の足音が、頼りなく響く。頭は未だ落ち着きを取り戻せないまま、私は医務室までの廊下を歩くことしかできなかった。


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