きみのはなし

今日はいつもより早く家を出て、いつも声をかけられる場所で立っていた。
前を通り過ぎていく並盛の生徒がオレに訝しげな視線を送る。それに耐えること五分、やっと待っていた声が聞こえた。

「あれ、沢田先輩?」

おはようございます、と挨拶をして、不思議そうな表情を浮かべたなまえが近づいてきた。

「おはよう」
「こんなところで、誰かと待ち合わせですか?」
「…なまえのこと待ってたんだ」
「……へ?」

ぽかん、と口を開けてまじまじとオレを見つめてくるなまえに、何となく居心地が悪くなって目を伏せた。

「いや…昨日話してて思ったんだけど、よく考えたらオレ、なまえのこと知らなすぎる」
「え、…?」
「名前と、家が店やってること。野球部のマネージャーってのは昨日知ったけど、クラスも、家が何のお店かも知らないし……オレを好きだと言ってくれてるのに、何も知ろうとしないのは、その…何というか、おかしいんじゃないかなって、思って……いやもちろん、言いたくないなら無理には聞かないけど!」
「……」


あわてて両手を振るオレを無言で見ていたなまえは、一瞬だけ悲しそうに笑った。

見間違いかと思ってしまうくらい、本当に一瞬だけ。


「…? あの、」
「私、一年A組です」

すぐに明るく笑って、なまえが話し出す。血液型とか、得意科目とか、趣味とか、好きな食べ物の話とか。
どうでもいいと言えばどうでもいい話。オレが今まで知ろうとしなかったこと。

「あと……ああ、家は商店街のケーキ屋です」
「ケーキ屋?」
「はい。…たまに、笹川先輩も買いに来たりするんですよ」
「えっ!?」
「沢田先輩もどうですか? うちで買い物してくれれば、笹川先輩に会えるかもしれませんよ?」

悪戯っぽく笑ったなまえに、「遠慮しとくよ」と苦笑いを返した。

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