「沢田先輩、こんにちは」
「あ、なまえ」
昼休み、廊下でなまえと会った。
彼女が立ち止まったのにつられて、オレも足を止める。
「先輩、昨日スーツ着た赤ちゃんと一緒に商店街歩いてましたよね」
「えっ、何で知ってんの」
なまえの言葉に、思わず目を瞬く。確かに、昨日リボーンと一緒に出掛けたけど…。
「私の家、商店街でお店やってるんです。それで昨日、店番してたら先輩が通ったんで…」
ああ、そういえば最初のころにそんな話を聞いた気がする。
「あの、昨日、笹川先輩に会いました?」
「え? 会ってないけど……何で?」
「ああ、じゃあ惜しかったですね」
「…何が?」
「うちの前を通るのがあと五分くらい遅かったら、笹川先輩に会えてたのに」
「え!? 嘘!?」
驚いたオレを見て、なまえが楽しそうに笑った。それどういうことだよ!
「嘘じゃないですよ。昨日、沢田先輩が―――」
そこまで言ってから、なまえは不意に口を閉ざした。
笑顔を消し、ごく普通の穏やかな表情になると、俺の横を通り過ぎた。
まるで、会話なんてしていなかったみたいに。
ごくごく自然に、赤の他人がすれ違っただけのように。
「え…」
「ツナくん?」
「! 京子ちゃん!」
思わずなまえの方に振り向きかけたオレに、聞きなれた声がかけられた。京子ちゃんだった。
「こんなところで何してるの?」
「あっ、いや…別に何も!」
慌てるオレに、京子ちゃんは不思議そうな顔をした。が、すぐにいつもの笑みを浮かべた。
「ツナくんはもうお昼食べた?」
「まだ、これからなんだ」
「私もまだなの。一緒に教室戻ろっか」
「う、うん…」
京子ちゃんと並んで歩きだす前に、チラッと後ろを振り返ってみたけれど、なまえの姿はもうなかった。