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ガイという男







「出張、ですか……」

「そうだ。出張だ」

「いつですか」

「1週間後だ」

「どこにですか」

「カカシがいる支社だ。出張はいいぞ?色んなねぇちゃんと出会えるからのォ!!ハッハッハ!!」

笑っている男。
本社の副社長、自来也を余所に項垂れる男が一人。
マイト・ガイは考える。
決して出張が嫌なわけではないが、本社からの帰り道にいきつけの居酒屋があり、辛い残業を終えた後にそこに行くのが何よりの楽しみだったのだ。
しかも、指定されたのは新幹線を使わねばならない遠くの支社で、いきつけの居酒屋に行けないことはガイにとってショックだった。

(あそこのカレー、旨かったのに…)

分かりました。と返事をし、自分のデスクに戻る。
ガイはカレンダーを見る。

(…この1週間の間に、あのカレーをたくさん食べておこう)

ガイはアルファだ。…というか、この総務部は人数が少ないものの殆どがアルファである。

「なぁにしょぼくれてんだ?」

隣に座っている同僚、アスマが声をかけてくる。目線はしっかりと書類に。
右手でペンを持ち、仕事をこなしていく。

「出張だそうだ」

ガイはフラフラとアスマを見る。

「いや、そんなこと聞いてるんじゃねぇよ」

アスマの返しに、ガイはそうだったなと別の回答をする。

「すまん……本当は、あのカレーが食えなくなるのが惜しくてなぁ」

すると、アスマの右手が止まる。

「あのカレーって、秋道屋?」

「そうだ。お前と良く飲んだよな」

アスマはフッと笑うと再び右手を動かす。

「そういえばそうだったな」

アスマはこの部署に中途採用されたキレ者で、隣同士話してみたら意外と気があったという平凡な関係。
ガイはアスマの働きぶりを見て、自分もと仕事を始めた。







ーーーーー






その夜、いきつけの居酒屋、秋道屋に行くと相変わらずの盛況ぶりだった。
空いているカウンターに座ると、その店主秋道屋チョウザが明るく迎える。

「いらっしゃい!ガイさん」

「ええ、カウンター失礼します」

「はいよ!」

ガイがカウンターへと座ると、二十代だろうか、チョウザによく似た男が水を持ってきた。

「水とおしぼりです」

「ありがとう」

礼を言うと、その男はニコッと笑い、奥へと引っ込んでいった。

「…息子さん?」

ガイが、料理を作るチョウザに聞くと頷いた。

「そうだ。この店を継いでくれるらしい」

「そうなんですか?」

「びっくりしたよ。別に好きな道に行けばいいのに、俺が継ぐとか…はい、ほうれん草のお浸しね」

ガイが来ると、一番に頼むほうれん草のお浸し。
最近はわざわざ言わなくてもチョウザが勝手に作ってくれる。

「ありがとうございます」

小鉢を受け取り、近くにあった割りばしを取る。

「いただきます」

ガイは手を合わせてそう言うと、ほうれん草を口にいれる。

「……うまい!」

その様子に、チョウザがニコニコと笑った。

「今日は何にする?」

「餃子と、エビチリ。あとはいつものカレーライス」

チョウザはそれに頷いた後、料理に取りかかった。
ガイはほうれん草を食べながら、出張について考えた。

(カカシかぁ…)

そのカカシという奴はガイの同期。
入社試験でトップで通過したカカシは当然本社勤務になる予定……だったのだが、それを放棄する。
「俺、本社勤めより支社がいいな。俺の本社行きはそこにいるやつにあげてよ」と、指差したのはガイ。
ガイは見知らずの男にそう言われて理解できなかったし、何より自分が入社試験をギリギリパスしたので、トップで通過したカカシからお情けを受けているようでたまらなかった。
それからカカシがこれが通らなかったら内定を辞退すると言い出し、それを飲んだ会社側も憎く見えた………当時は。
それからガイは支社行きが取り消され、一部の同期と本社勤めとなった。
あの時受けた悔しさをバネに、ガイはメキメキと実力をつけていき、今では主力の一人。
当時ほどカカシに対して苛立ちは覚えてないが、やはり心に残るものがある。

(…あいつ支社で何やってんだ?)

ガイは最後のほうれん草を口にいれ、咀嚼する。
出張は1週間後。

(まぁいい。その時カカシに俺の実力を見せつけてやる!)

「はい!エビチリと餃子!」

「ありがとうございます!」

受けとるなり、餃子を頬張ったガイに、チョウザは少し驚いていたのだった。









つづく







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