暁 | ナノ




嫉妬(角飛)







「かーくず!……あ?」

飛段が意気揚々と角都の部屋にはいると、角都は鏡の前でネクタイを締めていた。

「なんだァ?その服装」

「スーツだ」

角都は鏡越しに飛段を見る。
角都の服装は、黒いジャケットとパンツ、紅色のシャツに黒色のネクタイという出で立ち。

「スーツ?」

飛段は角都に近づき、スーツというものをまじまじと見る。
どうやら初めて見るらしい。

「マスクもしねぇのか」

「当たり前だ」

角都はマスクをしていなかった。
長い髪の毛を…いわゆるお嬢様結びにしている。
飛段は目線を頭から顔へとうつす。

「……なんだ」

角都に睨まれた飛段は、ニカッと笑う。

「角都って結構男前だよな!」

「………貴様と違って女々しくないからな。時に飛段。スーツはどうした」

「え?」

「任務だと説明があっただろうが」

角都は眉間にシワをよらせる。
数十分前、ペインから任務の説明があった。
ある男の暗殺である。
社交場での暗殺の為、スーツで行くことになったのだが、飛段はスーツが何か分からずに返事をしていたらしい。
角都は殴りたくなるのを抑え、飛段を見た。

「え?あー。スーツってそれね……んー、今から着替えようかなと思ってたとこだぜ!」

飛段は角都の殺気を察知し、そそくさと部屋を出ていった。






ーーーーーーー






午後6時。
夕陽がもう沈みかけている頃、二人はある里にある豪邸の前にいた。
次から次へと来るリムジンから、ドレスやスーツ、タキシードを着た人が降りてくる。
そしてそのままレッドカーペットがひかれた通りを抜け、豪邸へと入っていく。

「おー、すげぇな」

飛段が豪邸を見上げる。
飛段は薄茶色のジャケットに茶色のネクタイ、シャツは淡いベージュである。
角都は時計で時間を確認したあと、レッドカーペットを歩き出した。
その後を追いかける飛段。

「待てって!」

「……貴様は口を開くな。馬鹿が出る」

その口振りに飛段はムッとしたが、これで祈りの時間にまであれこれ口出しされたら困るので、口をつぐんだ。
そのまま二人は、他の招待客と共に豪邸に入り、偽の招待状で受付を済ませて場内に入った。

「……すげぇー…」

飛段は角都に聞こえないように呟いた。
豪華なシャンデリアが数えきれないほどぶら下がり、ステージには花が花瓶にこれでもかとさしてある。
白いグランドピアノには、いかにも高そうなスーツを着こんだ男が体を揺らしながら弾いていた。
招待客は、テーブルに置かれた料理や、酒を楽しみながら会話をしている。

「……お前はここにいろ。取って来てやる」

そういって角都は皿を持って料理の所へと行った。
飛段は適当に酒が入ったグラスを手に取り、口をつけた。

「!?」

旨かった。
ここで声を出したら怪しまれる。何より角都に起こられる。
飛段は「うめぇ!!!」と声に出さぬように酒を飲んだ。

「…いや、すまない。今夜は先客がいてね」

不意に聞こえた角都の声。
飛段は声がする方を見れば、角都が女に言い寄られていた。

(ほー。あいつでもそんなしゃべり方するんだな)

飛段は、自分にも女が言い寄って来ないかそわそわしたが、一向に声をかけられなかった。

「飛段。見苦しいぞ。」

気がつけば角都が目の前にいた。
手にはトマトと煮た肉の塊と、サラダ。

「スペアリブらしい。食え。野菜も食べろ」

「え!まじかよ!ラッキー!」

正直野菜はパスしたかったのだが、とりあえずフォークで肉をさし、かぶりついた。

(やわらけー!!)

「飛段…そのまま目だけステージに向けろ」

いきなり子声で角都が指示を出す。
言われた通りにすると、ステージ上に誰か立っていた。
恰幅の良い中年男性。紫色のスーツを着込んでいた。
この任務のターゲットである。

(……趣味悪いおっさんだな)

「…俺があいつの血を取って来る。それから外で呪え。それまで料理でも食べてろ。自然に振る舞えよ」

角都の指示に飛段は、肉にかぶりついたまま頷く。
そうして角都は人込みへと消えた。
飛段は角都がいなくなったのを確認し、サラダをそっと残す。
新しい皿を手に取り、スペアリブの元へと急いだ。あくまで自然に。



ーーーーー



30分後、飛段が元いた場所でスペアリブを頬張っていると、角都が戻ってきた。
懐にはターゲットの血が入っている注射器からなにかだろう。

「行くぞ。飛段」

飛段はスペアリブを急いで食べると、出口へと向かう。

「待ってよ。先客なんて居ないじゃない」

不意に後ろから女の声がきこえた。
振り替えると、先程角都に言い寄っていた女が角都のスーツのジャケットの端を持っている。

「君か」

「おい、角都行こうぜ」

長居したらここの暗部に見つかってしまう。
だが、角都は飛段を無視する。

「ねぇ、ちょっと付き合ってよ」

(何言ってんだこのクソアマ!)

飛段は女の発言にイライラする。

「……ああ、そうだな。すまない。一緒に行こうか」

そんな飛段とは裏腹に、角都は女の腰に手をまわし、歩き始めた。
飛段はイライラしながらも歩く。

(そんなに良い女かよ。ケッ。俺っつーもんが居ながら、結構なご身分だぜ。全くよ!)

内心で毒を吐いた。






ーーーーーー





豪邸から離れた森の中。
角都は飛段に離れるように言った。
飛段は森へと消え、女と二人きりになる。

「あら、いいの?お連れさん」

「ああ、良いんだ。それより」

角都は女に抱きついた。
女は少し驚いたが、それに答える。
そして胸に突き刺さる何かと、激痛を感じたが、その数秒後にはその感覚さえも無くなった。
角都は女を離す。
どさりと重い音をたてて体が転がった。

「…邪魔だ」

角都は血まみれの触手をしまい、飛段を追いかけようとした。

「見てたぜ」

上を見れば、飛段が見下ろしていた。
飛段は木から飛び降りると、角都の懐から血が入った小瓶を取り出す。

「さっさと済ましちまおーぜ。最近殺してねーからジャシン様の祝福が遠退いちまう」

飛段は腕を、懐から出した針のような武器で傷をつけ、血でジャシン教のマークを描いていく。
そしてターゲットの血を舐め、心臓を突くだけだった。






殺戮の儀式も終わり、アジトへと向かう。時刻は0時をまわっており、森もく暗い。
時折虫や鳥の声が聞こえる。

「なぁ、角都」

前を歩く角都に声をかければ、角都は振り返りもせずに返事をした。

「何だ」

「………何で女に抱きついたんだよ」

殺したければ、何もせずとも殺せたはず。何故わざわざ抱きついてから殺したのか、飛段には理解できなかった。

「………嫉妬か」

「うるせー!嫉妬じゃねーよ!」

飛段は声をあらげる。
が、角都の発言は的を得ていた。
様は飛段の嫉妬。
角都は立ち止まり、振り替える。
長い髪の毛が、さらりと揺れた。

「なんだよ」

飛段が言うと、角都は飛段を抱き締めた。

「なんだよ!いきなり!」

「?こうされたかったんじゃないのか」

角都は飛段の顎を持つ。

「我が儘な奴だな。貴様は」

「えっ!」

何をされるか理解した飛段は、顔を赤くし、目をつぶる。
その時、遠くからこちらに走ってくる音が聞こえた。

「追っ手か。追い付かれたら面倒だな。急ぐぞ」

そう言って角都は走り出した。
飛段も慌てて角都を追いかける。

(ちくしょー。あとちょっとだったのに。追っ手共皆殺しにしてやろーか)

「飛段」

走りながら角都が声をけた。

「続きは帰ってからだ」

「!?」

飛段は驚いたが、その瞬間から足取りが軽くなった気がした。
あっという間に角都を追い越し、走る。

「なら、早くいこーぜ!」

飛段の顔は、最高に笑顔だった。










Fin


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