■自演(角飛)
「ちくしょー…」
「ん、どうしんだデイダラちゃん」
昼間。
デイダラは机に頬杖をついていた。
それに気づいた飛段は、デイダラに声をかける。
デイダラはチラリと飛段を見た。
「角都の旦那が旅費くれねーんだよ。早くしねぇとサソリの旦那がキレちまう」
「あー……角都はそういうトコ厳しいからなー。まかせとけ!」
「え?お、おい!」
デイダラが飛段を止めようとしたが、飛段はさっさと行ってしまった。
デイダラはため息をつく。
(ま、いいか。どうせ無理だろ。うん)
デイダラは考える。
素直に旅費をくれと言って無理なことは明白だ。どうしたら旅費をゲットできるか。
デイダラは机に突っ伏した。
「デーダラちゃんっ!」
「!?」
その声にデイダラは驚き、顔をあげた。
そこには満面の笑みの飛段。手には金。
「ほらよ。旅費。角都くれたぜ!」
「え、ああ。サンキュー……え?これどしたんだよ!うん!」
デイダラは飛段から金を貰う。
飛段はニヤリと笑った。
「あいつ俺にゾッコンだからな!」
「(それは誰でも知ってるよ、うん)………普通に頼んだのか?」
内心でうすら寒いツッコミをいれたあと聞いてみると、飛段は眉間に皺をよせ、あたかも泣きそうな表情をする。
「かぁくずぅ……俺、デイダラちゃんが不憫でよぉ。次の任務野宿でいいから、デイダラちゃんに金をやってくれよぉ……ぐすっ」
飛段は真珠の様な涙を浮かべ、訴える。
そして、打って変わって笑顔になった。
「これやったらくれた!」
「あー…そりゃすげぇや。うん」
見てはいけないものを見たかもしれないと、デイダラは思った。
とりあえず、これで旅費は手に入れた。
あとはサソリに伝えるだけだ。
「とりあえず、金ありがとな!オイラ達肉がよく取れる里に行くんだけど、土産買ってきてやるよ。何がいいんだ?うん?」
それを聞いた飛段は大喜び。
「スペアリブ!!」
「ん、分かった!じゃあな飛段!」
こうしてデイダラとサソリは任務へと出ていった。
ーーーーーー
「私も人の事は言えないですが、貴方は性格悪いですねぇ」
「なんの事だ」
新聞の指名手配欄を読んでいた角都に声をかけたのは、鬼鮫だった。
鬼鮫はニヤリと笑い、口を開く。
「貴方、わざとデイダラに全額渡しませんでしたね?」
「……………」
「悩んでるデイダラに飛段が行くように仕向けたのも貴方。大方、居間にデイダラが居たぞ、とでも言ったんでしょう」
角都は黙る。目線はまだ新聞の指名手配欄。だが、その目は名前を追うことなく動いていない。
「そしたらデイダラは相談するでしょう。貴方の相方の飛段に、どうしたら金が貰えるか」
鬼鮫は角都の後頭部を見続ける。
「そしたら飛段は貴方の元へくる。デイダラの為に懇願しに」
「…………」
「やれやれ、無視ですか」
「…………無視ではない。聞いている」
「ククッ。そうですか」
角都は新聞を離し、袖から財布を出す。
そして札を何枚か出し、顔も見ずに後ろにいる鬼鮫に差し出した。
「おやおや。流石ですね」
「脅しにはまだ甘いがな」
「……厳しいですねぇ」
今から少し前。
鬼鮫はペインから任務を受け、任務に伴う旅費を角都の所へ取りに来たところだった。
だが、あの角都である。まともに言っても相手にされないだろう。
あれやこれや考えてるうちに、デイダラも任務を受けたのか、角都に旅費の催促をしに来た。
鬼鮫は隠れ、何かヒントが無いかどうか見ることにした結果、角都の自演をみたという訳だ。
鬼鮫はこれをネタに脅せば一発で金を渡してもらえるだろうと考えたのだった。
「随分と好いているようですねぇ」
「……まぁな」
「私も貴方達みたいになれたらいいのに」
そこでようやく角都が振り返ると、もうそこには鬼鮫はいなかった。
「……………」
角都は少し考えた後、再び新聞の指名手配欄を読む。
「かぁくずーー!…」
遠くで飛段の声が聞こえた気がした。
Fin