暁 | ナノ




アクシデント(角飛)#




「ごらぁあああああ!!てめー何しやがる!!!!」

アジトに響く怒号。
だが、その声は高い。
その声の大きさにイライラしつつ、角都は何事かと襖をあけた。

「うるさいぞ!捕虜を黙らせと…………あ?」

角都は暫くこの光景を理解できないでいた。
角都はてっきり、誰かが連れてきた女の捕虜が騒いでいるのかと思っていた…のだが、どうやら違うようだ。

「ほら、角都センパイ来ちゃいましたよ」

トビが呑気な声で言う。

「うるせーぞ!早く元に戻せ!呪うぞ!」

さっきの声が高い奴が声をあらげた。
だがそいつは角都が知ってる奴ではなかった。性別的に。
女。しかも自分の相棒に瓜二つの女がそこにいた。
胸を大きくさらけ出し、ぶすっとした表情でトビに喚いている。

「………飛段か?」

「あん?気づくのおせーよ!」

飛段らしき女は角都を睨み、吐き捨てた。
デイダラや鬼鮫は女になった飛段をまじまじと見ている。
イタチはそんな出来事は最初から無かったように、味噌汁をすすっていた。

「飛段」

小南が飛段に近づき、手を握る。

「女性物の下着がいるわね」

女性の新人が出来てどこか嬉しそうな小南。
飛段はその手を振り払う。

「いらねーよ!俺は男だ!おいコラトビ、戻せ!」

トビはなんの事やらと手のひらを上に向ける。

「えー?でもセンパイが言ったんじゃないですかー。女の体が見たいって」

どうやら飛段のくだらない独り言を聞き、トビが飛段に術をかけた……
ようやく状況が理解できた角都。

「何が悲しくて自分の体見なきゃならねーんだよ!デイダラちゃんにやれよ!デイダラちゃんに!」

いきなり話を振られたデイダラは眉間にシワをよらす。

「はぁ?何でオイラなんだよ!お前が適任だろ!うん!」

「ええい!うるさい!!!」

角都が一喝すると、辺りはしんと静かになった。

「…わー、びっくりした」

飛段が小さくそう漏らすと、体が宙に浮いた。

「わっ、角都、下ろせって」

飛段を担ぎ上げる角都。

「角都、飛段をどうするんです?」

鬼鮫がニヤニヤしながら角都に聞いた。
角都はめんどくさそうな表情をする。

「愚問だな。こいつに金を稼いでもらう」

「はぁ!?それってまさか…!」

「そのまさかだ」

その答えにデイダラは信じられないという顔。
鬼鮫はそうですかと返事をすれば、角都と飛段はこの場から消えた。

「怖ー…相方が女になった途端、金づるかよ」

デイダラは心底、女になったのが自分ではなくて胸を撫で下ろした。

「ま、角都らしいと言えばらしいですけどね」

鬼鮫がイタチをチラリと見る。
イタチは鬼鮫を見る。

(この人が女になったらどれだけ美しくなるのだろう)

鬼鮫がそう思った瞬間、イタチが持っていた箸が眉間に突き刺さった。

「ゲスな想像をするな」






ーーーーーーーーーーー







「おい!角都!!どーいうことだ!俺は男なんざ相手にしねーよ!」

外。角都に抱えられたままの飛段はジタバタともがく。
角都はそんな飛段をおさえ、ある里へと向かっていた。

「うるさい。喚くな。さっきのは冗談だ。だれが好き好んで貴様の蹂躙された姿など見るか」

「じゅ……?うるせー!下ろせ!」

角都の言葉が理解できなかった飛段は、ここでやっと大事な事に気がついた。

「あ!武器!俺の武器!」

「今更か」

朝食の途中でかっ去られた飛段は、自分が丸腰なのに気づき、角都に戻るよう言ったが、角都は無視。

「このまま里へと向かう。それから、お前を下ろすわけにはいかない」

「あん?何でだよ」

「貴様裸足だろう」

飛段は確かにと納得したが、だからと言って下ろさない理由にはならない。
昔、靴が戦闘で消失したときは裸足で歩かされたからだ。

「いや、前に裸足で歩いたじゃねーか」

「品のない女だ……」

その言葉にカチンと来た飛段。

(こいつ俺を女扱いしやがって!)

「このまま歩いていては何されるか分からん。急ぐぞ」

「は?うわっ」

瞬身を使われ、飛段は心底肝を冷やした。
自分が使うのではないからだ。
このまま抱えられて瞬身など使われれば、頭等をどこかにぶつけるかもしれない。
この速度でぶつけたら、確実にスプラッタな光景になるだろう。
飛段はどこかぶつけないように、ならべく縮こまった。





ーーーーーーーー





「着いたぞ」

「…どこだここ」

やっと下ろされたのは、どこかの建物。
中にはいると、照明なのかやたら白かった。
床は銀色。そこに白いカウンターがあり、近くには白い本皮の四角い椅子があった。
そこに角都に座れと言われて、座る飛段。
カウンターにいた女が、角都に近寄る。
知り合いだろうか、店員が角都の事を角都さん、と言っている。

「こいつに似合うのを頼む」

「はい、分かりました。えーと、お名前よろしいですか?」

白いスーツを着て、ベージュの色の髪の毛を後ろに束ねた女の店員は、にっこり微笑んで飛段に問いかけた。

「そいつが飛段だ」

飛段が、名前を言えずに言うと、角都が答える。
女の店員は角都を見たあと、飛段を見直す。

「まぁ、あなたが?」

「ひょんな事から女になった。暫く着る服を頼みたい」

「あらそう。では飛段さん、こちらへ」

手を引かれ、店員に言われるがままついていった。
飛段は初めての事ばかりでリアクションできずにいた。
角都はさっきまで飛段が座っていた椅子に座り飛段の方をチラリと見て、見送った。
飛段は店員に手を引かれ、カウンター奥にある螺旋階段をのぼっていく。
2階につくと、そこにはずらりと並んだ服があった。

「すげぇ服」

「まずは採寸ね。脱いで」

店員の言葉に飛段は驚く。

「はぁ!?」

「服。脱いで。なぁに大丈夫。あなた女でしょう。同性よ、恥じることないじゃない」

そういう問題じゃない。
飛段はあれよあれよと服を脱がされた。
下着も脱がされ、飛段はとりあえず股と胸を隠した。

「ふうん。あなた結構シャイなのね」

「うるせー!」

店員はポケットから採寸用の巻き尺を出した。

「手を広げて」





ーーーーーーーーー






飛段が店員に連れられてもう三時間。
角都は暇潰しに店の片隅にある雑誌を読んでいた。
流行の着こなし、髪型、モデルの鞄の中身………。
角都が好きな記事は特には無かったのだが、この退屈な時間にはどうしても必要だった。
正直、角都は飛段が女になった事には興味がなかった。
女になったとて、飛段は飛段。
特に変わりはない。
だが、さすがに男物のぶかぶかな服を着させるとなると無理がある。
だからこうして、前から馴染みのある店に来た。

(…………あいつに任せておけば、悪いようにはしないだろう)

三冊目の雑誌を読み終わり、次の雑誌に手をかける。
ペラリとめくれば、最新の髪型のページだった。

「………またか」

正直、こういう雑誌の髪型は全部一緒に見える。
角都はペラペラとページを捲っていく。

「できたわよ」

不意に声をかけられ、声のする方を見ると、店員と、その後ろには飛段がいた。

「………見違えたな」

「でしょう!」

店員は飛段を前に来させ、お披露目をする。
飛段はうつ向いている。
角都は予想を通り越して関心していた。
服が飛段の髪の色に近い色で、ぴっちりしたスカートのスーツ。
髪型はいつものままだが、耳には小さなルビーのピアス。
ネックレスはしてないが、うっすら化粧も施されていた。

「貴方の好み分からなかったから、私の好みにしといたわ。はい、これ一周間分の服と下着。あと化粧品ね」

店員に大きな紙袋を渡され、受けとる角都。
水商売の様なスーツは、いかにもこの店員らしいと角都は心のなかで思った。
飛段は恥ずかしそうな顔をしている。

「手数かけたな。これで足りるか」

角都は懐から札束2つを出し、店員に渡す。

「充分。口止め料も入ってるんでしょ?」

「勿論だ」

「この店、お釣りでないわよ」

「好きにしろ」

角都は飛段の腕を引き、店を出た。

「また来てね〜」




町中を歩いている二人。
角都がため息をついて飛段を見た。

「どうした。さっきかららしくないぞ」

飛段は情けない表情で角都を見る。

「はは…だってよ、こんな格好したことねーから、どうしたもんかと思って」

「ならばせめて普通に歩け」

「おう」

飛段がふと横を見ると、カップルがいた。
手を繋いで歩いている。

(ああ、そうか…今なら)

飛段はニヤッと笑い、角都の左手を握る。

「…何だ気色悪い」

「あ!ひでー!彼女に向かってなんだその言葉!」

今なら一目があるこの街中でも、手を握って歩ける。
飛段はそれが嬉しかった。
角都もそれに気づき、少し笑った。

「角都!デートしようぜ!」

「……いいだろう。だが油断するなよ。死ぬぞ」

「それを俺に言うかよ、角都!」

飛段は心のなかでトビに感謝し、意気揚々と歩いた。








ーーーーーーー




その頃、アジトではトビがデイダラの作品を見ていた。

「いーーだろ、何ならオイラの作品の一部になってみるか?うん」

デイダラがニヤニヤ笑い、トビを見る。
トビは肩をすくめ、首をぶんぶんと振る。

「それって僕も一緒に爆発しちゃうじゃないですか!やですよ!」

「なんだ、つまんねーの」

「あっ、そういえば」

トビが人差し指を上に向ける。

「もうすぐ切れちゃいますね」

その言葉にデイダラは首をかしげる。

「切れる?何が」

「術」

「術?………………あ」

「角都センパイ達どこにいるんだろう。一目のつかないとこならいいんだけど」











このあと、街中で服が破裂してボロボロになった飛段と、お怒りの角都に仕置きを受けたトビでしたとさ。




Fin


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