■独占欲(角→飛)!
まだか。まだ見つからんのか。
賞金首はどこにいる。
俺は頭に血が上るのを感じた。
話によればこの森の奥を賞金首が横断中だという。
だが、探せど探せど奴は見つからない。
「角都よォ、もう疲れたぜー。太陽も落ちてきたしよ、ここいらで一休みしよーや」
俺の憎たらしい相棒、飛段は一段と太い木の元へと歩くと、そのまま座り込んだ。
「……そうはいかん。急がねば賞金首がこの森を抜けてしまう」
そう伝えると、飛段はこれまた分かりやすく拗ねた顔をした。
「はァ?こちとらお前のバイトに付き合ってんだぞ。たまには俺にも合わせろよ。俺は絶対ここから動かねーからな!」
毎度の事ながら、飛段は寝転がる。
イライラする。
いや、今回は特段、頭に来た。
だが我慢だ。確かに今日は一休みもしてない。
ここは飛段の言う通り、休むとするか。
「これだから昨今のガキは…明日、早朝に出発だぞ」
そう伝えると、飛段はさっきまでの拗ねた顔から一転、笑顔に変わった。
「まじか!!やったぜー!!」
飛段は嬉々として立ち上がり、自分の武器で手のひらを刺した。
こればかりは本当に理解できん。
喜んで自分を刺すなどと、こいつは真正のマゾヒストか。
飛段は手のひらから出た血でジャシンのマークを地面に書くと、その上に寝転がり、目を閉じた。
毎度恒例の祈りが始まった。
長い、長い祈り。
「飛段、今回はその長い祈りとやらを短縮しろよ」
「だから!祈りに短縮とかねーから!」
ーーーーーーーー
夜が更け、簡単に腹ごしらえをしたとき、むくっと飛段が起き上がった。
どうやら祈りが終わったらしい。
「長かったな」
「まーな。最近生け贄捧げてねーしよ、それも祈らなきゃならねーからな」
「………そうか」
「それでな?ジャシン様ってこう、寛大なんだよな!あ、もちろん戒律破ったらすげぇ厳しいけど、ジャシン様の為ならなんだってできるっつーか」
………こいつの口からでる「ジャシン様」というのが、今日は、やたら耳につき、
「やっぱ俺が献身的に生け贄を捧げてきたから、ジャシン様に愛されたんじゃねーのかな?………角都?おーい、角都?うわ!おいやめろ!!!」
気がついたら、飛段の右足を切断していた。
パックリ割れた太股から、血が流れ出す。
「いってええええええ!!!」
飛段の叫び声は、なんたる間抜けなのだろう。
右足を切断したというのに。
常人なら、言葉にならない声で悲鳴をあげてる所だ。
俺は右手に持っている飛段の足を顔に近づける。
「なにすんだよ!返せって!」
飛段は痛みをこらえながらも俺のコートをつかみ、一本の足で立とうとする。
ビチャビチャと音を立てながら滴り落ちる血。
飛段の足の断面は、赤黒い血のせいでよくわからなかった。
俺は口布を下ろす。
「っ!?」
飛段は言葉を飲み、どすんと地面に尻をついた。
俺が飛段の太股を舐めたからだろう。
血味はいつも苦い。鉄の味。
だがどうしてか、今まで不本意にも口に入ってきた血と、味が違っていた。
ほんのり、いや、微かに甘い。
「オイオイオイ、お前そんな趣味あったのかよ……」
「…………どうだかな」
俺はしゃがむと、飛段の右足を元通りにしてやる。
足を縫い付けている間、あたりはとても静かだった。
「飛段」
「なんだよ…」
「今日はジャシンとかいう神の名は出すな」
飛段は理解に苦しんだ表情の後、何か理解したのか、頷いた。
「わかった」
「それでいい」
縫い付けが終わり、ついでに切れたズボンも縫ってやる。
「飛段」
「なんだよさっきから」
「好きだ」
心底驚いて反応できずにいる相棒のズボンを縫い終わり、俺は寝る支度をする。
明日、飛段がどんな顔をして起きてくるのかが楽しみだ。
「今日はもうしゃべるなよ。しゃべったら貴様の首を切り裂いてやる」
おやすみ、飛段。
Fin