放課後の教室。
俺は一人居残りをしていた。
「あー、やっと終わった…これで全部だよ、な…」
俺はそう言って身体をぐっと伸ばし、机に俯せになった。
あー…、しんどかった…
塵も積もればなんとやら、俺は今まで溜めてきた課題を一気に片付けて、あまりの多さにげんなりしていた。
が、いつまでもダラダラしていてはいけない、さっさと立ち上がって、最後の理科の課題を提出するため、理科教室に向かった。
課題なんてその科の内容がきちんと理解できていればやらなくても良いと俺は今まで思っていた。
だけど、鬼道さんにまず課題を出してから部活に参加しろ、なんて言われたら流石に出さないわけにはいかない訳で、やはり鬼道さんに言われる前に、きちんとしておくべきだったかもしれない、と反省をしていた。
理科教室横の廊下を通り、窓越し理科教室の中を覗くと、何故かゆいが居た。
ゆいは水道で実験器具を洗っていた。
…そういえば、ゆいは科学部だったっけ。
ゆいも廊下から見ていた俺の存在に気が付いて、笑顔を見せた。俺もそれにつられて笑顔になった。 「よお、やってるの?」
俺は教室に入ってゆいに話しかけた。
「うん、まあ、もう終わるけど。」
ゆいはそう言って洗い物を続けた。
ゆいは白衣を着ていた。
白衣姿のゆいはいつもとは別の魅力があって、俺はときめかずにはいられなかった。
「……ゆい、その格好は…」
「え、あ、ああ。
部活のユニフォーム、みたいなもの。」
「…白衣が?」
「うん、白衣が。」
そんな会話をしながら、俺はゆいの背後に行き、ゆいを抱き締めた。ゆいの肩に頭を乗せる。
首筋に鼻を近づけると微かに石鹸のような匂いがした。
「…何?」
ゆいは少し笑ったような声でそう言う。
「白衣は……反則だろ、可愛すぎる。」
思ったままのことを素直に伝えた。
「…飛鳥、先生に見られちゃう…」
「見せておけばいいじゃん。」
「…もう。」
ゆいはそんな言葉と裏腹に照れて、嬉しそうな様子だった。何だか幸せだなあ、とじわじわ感じた。
ふと、疑問が沸いた。
「…ゆい、いつもこんな格好で部活してんの?」
「うん、ユニフォームなんだもん。」
「科学部って男子いるよね?」
「そりゃあ、勿論。」
やっぱり。
少し悔しい気持ちになった。
俺以外の男が俺より先に この姿のゆいを見ていたなんて。
「何か、嫉妬するなあ…」
「ええっ、何で?」
少し笑ってそう言うゆい。
無防備過ぎる。
俺がどうして嫉妬しているのか、悔しく思っていることに至っては気付いてすらいないんだろう。
しっかりと自覚を持たせよう、俺はゆいに恥ずかしげもなくこう言い切った。
「だって他の奴にゆいのこんな可愛い姿見せたくないからさ。」
こんなだから、俺はたまにゆいがいつか誰かに食べられちゃうんじゃないかと心配に思うことがある。
特に、サッカー部の奴等には絶対(特に佐久間とかそこら辺に)紹介したくない。
こんな無防備な奴、あのサッカー部の連中(というよりは寧ろ佐久間)が見たら確実に面白がって手を出してくるに違いない。
ああ、駄目だそんなの、俺、耐えらんない。
「…もう、何言ってるの」
呑気にゆいはそう言う。
俺は抱き締めていた腕を解いて、ゆいの手を取り、上手くをこちらに向かせた。
じっと目を見つめ、笑みを忘れず少し冗談っぽくこう言った。
「そういうのは、俺だけに見せていたらいいんだよ?」
「…うん」
はにかんで小さく、ゆいはそう返事をした。
俺はその様子が可愛くて、胸がきゅーっとなる感じがした。堪らずゆいの頭を撫でた。
「わかれば、よろしい」
わざらしく、偉そうな風に言ってみた。
ゆいは笑った。
022.自然会話
「…飛鳥、そういえば何しにきたの?」
「あ、やべ。」