「なあ、聞いてくれ」
「何だ」
食堂で昼食をとっていると、急に源田が話題を持ち出した。
「俺、ゆいと食事をしにいったんだ」
源田がゆいのことを好きだと言うことはよく知っていたが、長い間ぐずぐずとしていた源田がとうとうゆいとの関係を進展させたようで、俺は驚いたが、正直微笑ましく感じた。
「…よかったな」
俺はそう言ってからお茶を口に含んだ。俺の隣にいた佐久間は勿論面白そうな源田の話に興味を示し、食いついた。
「マジかよ源田。どうやって誘ったんだ?」
「いつも勉強教えて貰ってるから…そのお礼って言って」
「それで?」
俺が何気なく続きを聞くと、源田の表情が急に暗くなった。
騒がしい食堂の中、俺たち三人の間に沈黙が広まった。
「…ゆいがラーメンが食べたいって言ったから連れて行ったんだけど」
「けど…?」
「俺さ、ゆいを誘うから気合い入れようと思ってその前にビタミン剤飲んでたんだよな」
「…」
源田の口からビタミン剤、という単語を耳にした瞬間、俺は顔が引きつった。
「カフェイン効果のせいでラーメンが全然お腹に入らなくて…」
「お前馬鹿だろ」
「う…う……」
源田は情けない声を出してうなだれた。
気合いを入れた結果、それが裏目にでるとは流石、源田幸次郎といえる。サッカーグラウンドでは頼り甲斐があるのだが、それ以外の場所では全くの天然っぷりを発揮する。俺は少し涙ぐんだ。ゆいもさぞかし困っただろう。自分を食事に誘った相手が全く食べないなんて、食事をしにくくて仕方がない。
しかしそれを責めたところで源田の胃を弱らせるだけだと考えた俺はとりあえずフォローに回ることにした。
「ま、まあ、元気出せ…嫌われた訳じゃないんだから」
「…そう、だよな…」
源田は俯いていた顔を上げて、少し表情を和らげた。
「じゃあ、今度はうどんにする」
「それは止めておけ」
俺は呆れた笑顔でそう言った。