「あ、ゆい。俺今日もう帰るから悪いけどこれ、源田に渡しておいて」
「うん」


放課後、私は佐久間に頼まれてサッカー雑誌を部室にいる源田へ届けに行った。

「源田…」

ドアを開けてみると、源田の背中が見えた。あれ、おかしいな。私の目には源田が上着を着ていないように見える。私は絶句した。

源田が振り返り、ああ、と短い挨拶をした。私は間髪を入れず疑問を投げかけた。

「なんで上半身裸」
「着るのを忘れていた」

そんな馬鹿な。

上半身裸の王様は唖然とする私を気にする風でもなく堂々と座って右手で小さなダンベルを上下させ、膝の上に雑誌を開いて読んでいた。私は預かった雑誌を渡すために源田に恐る恐る近付いていった。すると源田は急に雑誌を閉じ筋トレを止めて立ち上がった。そして私の方を向いた。背中もすごかったけれど正面もすごい筋肉だった。腹筋割れてるよ、源田の身体。これは女子が惚れてしまうのも頷ける。あれ、おかしい。何で、頷けるんだ。(服を着るのを忘れるくらい抜けてるのに)何で、私、胸がどきどきしているんだろう。あれ。何でだ。何でだ。

「何か」「え」

頭の中の疑問を反復していると源田がそれに割って入ってきた。源田の身体の筋肉に見とれていたことを指摘されたと思い、急に顔が熱くなった。

「何かあったのか」
「あっ…え」

そう言いながら上半身裸の源田が私に近付いてくる。ちょ、駄目だよ、駄目だ。
源田が一歩近づけば私は一歩後退りする。繰り返しているうちに気がつけば壁に追いやられていた。
源田と私の距離が2mを切った。

「いや、駄目、駄目駄目、
これ以上近付かないで!」
「? それ、俺が佐久間に貸していた雑誌だろ」
「だ、だから…!」

これ以上近付かないで!
そう言おうとした瞬間。ドアが開く音が聞こえた。そこには鬼道さんが居た。私は鬼道さんとゴーグル越しに目があった気がした。源田も多分鬼道さんと目が合ったと思う。鬼道さんは見る見るうちに顔が真っ青になっていった。私も同じく血の気が引いていくのを感じた。鬼道さんは持っていたバッグを床に落とした。

「…………邪魔を、した」

必死に言葉を捻り出すようにそう言って、鬼道さんはドアを閉じた。

「き、鬼道さん…!」

せめてそのドアを閉じないで欲しかった…!

「? 鬼道、邪魔なんかしてないよな。
佐久間に頼まれたんだな、どうも…
…? ゆい、顔色悪くないか…気分悪いのか?」

…鬼道さんの、誤解を、招いてしまった。

大体そうだ。いつも源田に関わるとろくでもない目に遭う。私は溜め息を一つついた。
そんな私を見て目の前にいる上半身裸の王様は一層心配そうにこちらの顔を伺ってきた。
なんだか頭が痛くなってきた。
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