ああ、何で僕は彼女の首を絞めているのだろう。
低酸素状態にいるあなたが見ている世界には僕一人だけが居るのだろう。

息を吸いたいわけでもないのに、無意識で口をぱくぱくさせ、静かに涙を流すあなた。泣きたいのは僕の方だ。何で、何で一番大切な人の首を絞めなきゃ駄目なんだ。

どうして首を絞めてと僕に願ったのです。


「ゆい」


僕が傍にいるのに、どうしてあなたは死にたいなんて口にしてしまうのですか。


「ゆい」


あなたに死んで欲しくないと思うのに、僕にはあなたを止めることができない。あなたの望みを叶えることこそが僕にできることだから。優先すべきは僕の感情ではないのだ。
だけどいくらあなたの為だと思っても、どうして、という言葉ばかりが浮かんできてしまう。

僕はあなたを支えられていなかったのですか。僕はあなたに笑って居て欲しかったし、最大限そのために力を尽くしてきたつもりでいた。

まだ果たせていない約束もあるじゃないですか。一緒に駅前の評判のケーキを食べようって言ったじゃないですか、花火を見に行こうって言ったじゃないですか、結婚しようって言ったじゃないですか。あなたはそんなこと楽しみじゃなかったのですか。

あなたは僕のことが好きだって言ってたじゃないですか。

ぽたり、とあなたの頬に僕の涙が一滴、また一滴と落ちていった。


「…いやだ」


あなたの幸せは本当に死の中にあるのですか。
あなたは今これで幸せなのですか。

なら、どうしてあなたは泣いているのですか。


僕はあなたの細くて白い首から手を離した。


僕はただ盲目的にあなたの望みを叶えてきた。あなたの願いを叶えることこそがあなたを愛するということだと思っていたから。

「…死にたいなんて望まないで下さい」

だから僕の望みなんて伝えたことがなかった。それがあなたの幸せに繋がるとは思えなかったから。

でも、違う。

あなたは本当は死にたくないのだ。
僕はあなたに依存して生きていた。僕が自己を犠牲にしてまであなたを愛していたことが、ゆいにとって辛く、とても見ていられなかったのでしょう。

だからあなたは、僕が断り切れない、僕が一番自己の中で決着のつく方法で、僕の役目を永遠に果たさせようとしたのでしょう。
ゆいはあなた自身がいなくなれば、僕は僕自身を生きることができると信じて。


僕はゆいを愛しているつもりで不幸にしていた。

でも、僕は今わかった。
僕があなたのためにできることはあなたのことを愛することも、それはもちろんだが、自分のことを、あなたが僕のことを思ってくれているように愛することだった。ゆいはどうしてこんなにやさしいのだろう。頬に伝うそれが先程とは違う温度のものに感じた。今のは悲しくて出たわけじゃない。

僕はあなたを力一杯抱き締めて、その肩に顔を埋めた。


もう一度、やり直しましょう。



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