ゆいに初めて出会ったのは、まだ俺が小さかった頃のことだ。

ゆいが家の奥、暗い場所に閉じ込められていたのを俺が見つけて。
それから毎日毎晩俺は彼女の元へと通い続けている。

ゆいは俺の話をこれまで沢山聞いてくれた。
楽しかったこと、嫌なこと、悩んでいること。

彼女が世界で一番俺のことを知っていると言っても間違いはない。

彼女と俺の結びつきは強く、固かった。


「ゆい」

「こうじろう」


俺の名を呼ぶ声は透き通って柔らかく、ほんのりと甘い含みを持ち、それでいて、凛とした少女の可憐さもある。
この世の何よりも理想の音であると言えた。

俺の太股に座っているゆいはとても軽く、華奢な身体つきをしている。
細い細い彼女の頼りない背中を見ていると
愛しさと庇護欲を感じて、俺はぎゅ、と彼女を強く抱き締めた。

甘えるような俺を見て、ゆいはくす、と微笑を浮かべた。
俺もつられて微笑みを浮かべた。


「わたし、しあわせよ」
「俺も、幸せだよ」


そう言って、より一層強く抱き締めた。
ゆいの身体は、俺があんまり強く抱きしめてしまうと壊れてしまいそうなほどだった。


「なあ、ゆい。
今日はゆいにプレゼントがあるんだ」

「?」

「今日は、俺がずっと前にゆいを見つけた素敵な記念日だから。
洋服だよ。ゆいに合うと思って」

そう言いながら、ゆいに服の入っている袋を渡した。

「また、しろいワンピースなのね」

袋の中身を確認するまでもなく、くす、と笑いながらゆいは言った。

「だって、ゆいには白いワンピースが似合うから。」

ごちゃごちゃした様なのは、寧ろ元が完璧なゆいの美しさの邪魔になるだけだ。

「…ありがとう。
さっそく、きがえたいわ。てつだって、もらえる?」

ゆいは俺の褒め言葉にはにかみながらそう言った。

「ああ、勿論だよ」

背中にある服のジッパーを下ろすと、ゆいの白い肩が露になる。
それが艶めかしくて妙な欲望を掻き立てられる。

だが俺はそう思うだけで彼女には何もしない。
これまでだってそうだった。
ゆいは俺の欲望の捌け口にしていいような存在ではないのだ。


ふと浮かんだ邪念をさっと振り払い、服を脱がして、新しい服に着替えさせていた。

新しい服の袖にゆいの右腕を通し、次は左腕、という時だった。

「こうじろう」

ふと俺を呼ぶゆいの声。
俺が返事をする間もなく、かた、という質量感の無い音がした。

下をよく見ると、細い腕が落ちていた。


ゆいの腕だった。



ゆいの腕が落ちていた。





現実に引き戻される。


ひどい幕切れじゃないか、ゆい。


そう洩らしても、俺の腕の中にいる彼女はもう何も言わない。


最後に言いたかった言葉は何だ。


さよなら。
ありがとう。
あんまり強く抱きしめないで。



俺にはもうわからない。聞こえない。


ここは暗い物置部屋。











ああ、君は人形だった。
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