「ゆいー」
「ゆいー」
「ゆいー」
ああ、もうっ
「うるっさい!」
私の机の前に両手を引っ掛けてしゃがみこみ、休み時間に本を読んでいる私の顔を覗き込むにこにこ顔の幸次郎に耐えきれなくなった私はそう叫んだ。
子犬のように無垢なきらきらと輝くあの目で見られると、どうも無視し続けるのが辛くなる。(何故か知らないけど罪悪感が沸いてくるのだ)
「なあ、これやるよ」
「何…」
幸次郎が私の目の前に差し出したのは小さな可愛らしい四葉のクローバー。
「見つけたんだ」
幸次郎が私にクローバーを受けとるように指先でそれを軽く揺らした。
それを見て私は無意識的にクローバーを幸次郎から受け取った。
「……ありがとう…
でも、よく見つけたね」
ほんの数十秒前まで彼を疎ましく思っていたのに、なかなか野生では見つけにくい四葉のクローバーをくれたことがちょっとだけ嬉しくて、彼への対応が良くなった自分が現金な人間に思えた。そんな私の気持ちを察するはずもない幸次郎は、へへ、と少年らしい笑い方をして話を続けた。
「いつも部活の帰りに土手で佐久間とサッカーの練習してるんだけど、昨日練習の合間に偶然、さ。
今までにも何本かそこで見つけたんだけど、折角だから今回はゆいにあげようと思ってな。
五つ葉とか六つ葉とかあったりして、見つけると、これが意外と面白いんだ」
サッカーの練習の合間に四葉のクローバー探しとは、なんつーメルヘンチックな脳みそをしていらっしゃるのか。
流石、源田 幸次郎といったところか。(行動が予測不可能、詰まるところ行動に大した意味がない)(今までの例で言うなら自動車の初心者マークを拾って集めてきたり)(これは綺麗好きな鬼道くんに処分されたらしい)
「―それで、四葉のクローバーの花言葉は…」
と、また話を続けようとする幸次郎。ああ、まだ終わってなかったんだ。
…あれ?
「え、四葉のクローバーって、花言葉、あるの?(葉っぱ、なのに)(そもそも花言葉なんか知ってるなんて流石育ちがいいというか訳分かんないというかなんというか…)…で、何?」
ふと、しゃがんでいた幸次郎が立ち上がった。視線を合わせようと私は自然と上目遣いになる。
幸次郎がほんのり頬を赤く染め、より一層にっこりと私に笑いかけ、花言葉を告げた。
「…『俺のものになって下さい』。」
クラスメイトが一斉にこちらを見る。
ああ、だから嫌なんだ。幸次郎は、私には予測不能な行動を起こす。そもそもこれが告白なのか、普通、こんな言葉を言われたら告白だとストレートに結びつけていいのだけれど、幸次郎だから、そこから疑わなくてはならなくて。
だけど、今回は幸次郎の顔が赤くなっている所から察すると、そういう意味らしいことは間違いなかった。
冷静にこの状況を判断しようとしているけれど、私の顔はさっきから熱くて仕様が無いのだ。
それは周りに見られているせいだけではなくて。
何のせいかというと、
(今、わかった)
(悔しいけれど、)
私もあなたが好きだった。