「ヒョウタ」
「試験、応援してる…だから、頑張って!」
春の海
試験には無事合格して、真っ先に君にそれを知らせたくて、その合格通知を片手に君に会いに行った。会いに行った君は、合格を聞いてとても喜んでくれた。
「あの時、君が応援してくれていたから、僕は試験に合格できたんだ。」
ゆいは首を横に振った。
「試験を切り抜けられたのは実力があったからだよ。すごいよ、ヒョウタ。自分のユメ、実現させたんだから。」
私もがんばらなきゃ、とゆいは微笑みながら僕に言った。
「お祝いになにしよっかな?」
「…一緒に遠いところへ出かけよう。ジムリーダーになったら今までより遠出はできなくなるんだから。」
「…うん。」
最近もジムリーダーになる為の試験練習ばかりでゆいと会うことができていなかったし、ジムリーダーになったということは、もっと二人だけの時間が得られなくなったということだ。
思い出を作るなら、今しかない。
振り向いてみると砂浜に、二人の足跡が残っている。寄せては返す波の音がずっと響いていた。
海に居るのは、僕らだけだった。
「海は久しぶりだなぁ。」
「ヒョウタはそうかも。
だって鉱山にいることが多いんだもん。
そういえば海に二人で行くのは初めて、だね。…でも、ちょっと寒いかな。」
「春だから…まだ海は早かったかな」
今日はもうそんなには酷くはないが、先週くらいまでは春一番が吹いていて、とても風が強かった。
やっぱり別の場所がよかったかな、
ヒョウタがゆいに聞いた。
「そんなことないよ、ヒョウタとならどこでも幸せだから」
ヒョウタはその言葉にどきっとした。思わず顔が赤くなる。
僕も幸せだよ。君と一緒に居られて。
海に到着してから、どれ位の時間がたっただろうか。
二人は浜辺に座って、波を見ていた。
大きい波が来たり、小さい波が来たりと海は休むことなく永延とそれを続けている。
「ヒョウタってあんまり泳げないよね。多分。」
「あ、ああ。うん。カナヅチだから……恥ずかしいな。
でも、どうして判ったの?」
「なんとなく。泳げませんって顔してるなって思ったから。」
泳げないという恥ずかしい事を顔で世間様に公表していたのか、僕は。
「…そういえばさ、昨日言っていた“ゆいの夢”って何なのかな?」
ふと思いついたことを言ってみた。僕がゆいに試験の結果を伝えに言ったとき、君が言っていた“夢”。それが何なのか、少し気になった。
「私の夢?」
「うん。そういえば、知らないなって思って。」
僕がそう聞くと、ゆいは少し考えてから、
「秘密」
と言った。
「恥ずかしいから…
その代わり、その夢が叶ったら一番最初にヒョウタに言うよ。」
「…判った。楽しみにしておくよ。」
ゆいの夢、一体何なんだろう?
でもきっと叶うよ。ゆいがしてくれたように、僕もゆいを応援するから。
ふと瞬間だった。ゆいとヒョウタの手が触れ合った。ヒョウタはその手を握り、恋人に囁いた。
「ゆい」
暫く僕たちは見詰め合ったままでいた。
ゆいの瞳に僕が映っているのが見えた。
そして二人の影が重なった。