目の前をシャボン玉が通っていった。
何処から飛んできているのだろう?
Flying Heart
そう思って辺りを見回すと、シャボン玉を作っている何人かの子供とその中にまぎれて一人の大人がいた。
…あれ?
「…ゆい?」
「あ、ダイゴ!」
ああ、やっぱりゆいだった。力一杯手を振ってくるゆい。かわいい。
「…何をしてるんだい?」
「見たら分かるでしょ? 皆でシャボン玉作ってんの!」
ねー、とゆいは周りにいる子供たちに同意を求めた。
子供たちもゆいのように、ねー、と言って笑っている。
「ダイゴもやろうよ!」
喜んで。
しかし、どうして彼女がこの中にいるのかが不思議に思う。どういう経緯でこうなったのか少し気になった。
「シャボン玉なんて、作るのは何年振りだろう。」
「だよねぇー。私も久しぶり。
でもさ、シャボン玉って膨らますだけなのに、どうしてこんなに楽しいんだろうね?」
そう言って、ゆいはシャボン玉を作り始めた。
ゆいの作ったシャボン玉は周りの子供たちのシャボン玉と楽しそうに空へとあがっていく。
僕もゆいの横でシャボン玉を吹いた。
思いっきり吹いたから小さなシャボン玉が沢山でき、それらはふわふわと空へ上っていった。
「おお、一杯!やるねえ。私も負けてらんないや。」
ふーっ!とゆいも勢いよくシャボン玉を吹いた。
その後も、僕たちはとにかく一生懸命に黙々と、ただシャボン玉を生産した。
時々、二人の吹いたシャボン玉はぶつかり、雪だるまのようになった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「あー、酸欠になるー。」
「あはは、吹きすぎだよ、ゆい。」
「そうかも……
…シャボン玉って、儚いなあ…」
ゆいはそういってシャボン玉が飛んでいく空を見上げた。
「そうだね。
…そういえば、外国には割れないシャボン玉っていうのや、食べれるシャボン玉っていうのがあるよね?」
「え、ほんと?初耳。シャボン玉を食べる、かあー、いいなあ、楽しそう。イチゴ味とか、グレープ味とか、あるのかな?」
「んー、詳しくはしらないけど、多分あるんじゃないかな。」
「おお! すばらしい」
この手のなんたら味っていうので感動するのは、歯磨き粉のなんたら味で感動する子供と変わんないレベルの話だよ、ゆい。
でも、ゆいらしいな。
「欲しいなら、今度買ってきてあげるよ。」
「え、ほんと?
じゃあ、お願い!」
「うん、お願いされた。」
君のためなら。
「ダイゴってほんと良い人だね」
満面の笑みでゆいはそう言った。
「(…僕の気持ちは、伝わらないなあ)」
そうだ、僕は君にとって良い人でしかない。
シャボン玉のように、ふわふわ飛んでいる君の心を僕が掴むのは難しい。それに、掴んだ瞬間、割ってしまいそうで。この関係が壊れてしまう気がして。
「(なら、このままでもいいかな。)」
僕は、君の傍にいられるだけで幸せなのだから。