私はナギサジムの扉をばんっと開け放ち、声高らかにこう言った。

「馬鹿野郎のデンジくんは何処ですか?」


039.馬鹿野郎。


「ああ、ゆい。おかえり。帰ってきたんだね。」

下のほうから声が聞こえる。
…くたびれた人形のように相棒のレントラーと共に彼は床に横たわっていた。

「『帰ってきたんだね』じゃないわ!
このナギサが停電しているの、あんたが原因って話じゃない!
しかも、一回目じゃなくてもう数え切れないくらい停電を起こしている常習犯って!」

「そうかな…」

そう悪びれる様子も無く、デンジは相棒のレントラーと気だるげに戯れていた。ちゃんと話聞きなさいよ!

私はデンジの元に近寄り、床に転がっているデンジを見下ろすようにして立つと、
寝転がったままだったデンジは上体を起こし、私の目を見た。

「パンツ丸見えだったよ。水色の縞ぱ」

ドカッ

何の音だって? そりゃ、この男を殴った音ですよ。何見てんの、というか言うなよ。ジムにいるトレーナーの視線が一気に集まったじゃない!!

「痛い…」
「こっちは心が痛いんですけれど。」

というか、殴った手も痛いんですけど。
腹立たしいけれど、言うのは何だか情けないので言わないでおいた。

……

ほ、本題に戻そう。

デンジを殴りに来たんじゃないもの。諭しに来たんだもの。

「デンジ、言っておくわ。あんまりこんな無茶をしているとジムリーダーを降任させられるわよ。
町の人がそろそろ本当にジムの協会に相談するつもりだって噂もあるのに……」

「でも、暇なんだよ……暇すぎて、俺、死んじゃいそう。」

この男は何を言っているのだろうか。

いや、お馬鹿なデンジくんに常識を求めた自分が悪いのか。

「ゆいくらいだよ、俺を熱くさせてくれるのは」

「……」

死んだ魚のような目をしているデンジの目が少しだけ輝いたような気がした。…いや、死んでたら輝かないよ。

「だから#name3#が帰ってくるの、ずっと待ってたんだ。
…ポケモンバトルしないか?バトルしてくれたら、その、ちゃんとするから」

「ほんと…?」


いつもと違ってちょっとだけまじめな顔をしていたので、ちょっとだけ期待して聞きなおした。

「うん………一ヶ月くらいは」

…やっぱり、駄目だ。

「…デンジに少しでも期待したあたしが馬鹿でした。」

「いや、ちゃんとするよ」

「……」

この男が未だかつてちゃんとしたことがあっただろうか。
…無い。絶対に無い。

………でも、…一ヶ月でもナギサの人々に迷惑がかからないなら…

「デンジ、バトルするわよ。用意して。」

「準備はできてる。これでもジムリーダーだから。」

デンジはそういってモンスターボールを取り出し、構えて、私の目を見た。
私もモンスターボールを構えた。

「じゃあ、いくわよ。」


 ・・・ ・・・


両者のポケモンが同時に倒れる。そして間もなく審判が両者の戦闘不能を告げた。

ジムに居るトレーナー達から、ざわざわと声が沸いてくる。


「相打ち、ね」


もう少しで勝てたのにと思ったがデンジもそう思っていることだろう。
そして、デンジはというと…水を得た魚のように興奮し、活動的になっていた。

「絶対に勝つつもりで挑んだのに…」

「ゆい、やっぱり強いな!」

「…デンジもね。」

悔しいけれどジムリーダーをしているだけのことはあると思う。

その後、デンジにもう一回バトルをしようとせがまれ、少しの間でもいいからこのナギサに滞在していて欲しいと言われた。
でも私は断った。
先に進まないといけないから。…強くなりたいから。




プルルルルとポケギアが鳴る。
そしてもしもし、と言う返事が返ってきた。

「あ、ねえドナルド。え、何…その呼び方やめろ?いいじゃん、別に。
 こっちはホウエンに居たのに、急にシンオウに呼び戻されたんだから… 頼まれたとおり、ちゃんとデンジ戦ったわよ。…私じゃなくて、オーバ、あなたでもよかったんじゃない?私より強いんだし……え? ………うるさい、馬鹿…じゃあね。切るわ。」

ピ、とボタンを押し、会話を終了させ、モンンスターボールからオニドリルを出した。そしてその背中に乗る。


『あいつ、お前のこと好きだからさ』


いや、そんな訳……無い。あのやる気の無いデンジが人を好きになるなんて。しかも、よりによって私なんて…

うん。嘘だよ、きっと。
…オーバめ、人をからかって……次あったときは覚えときなさいよ…!

私はそう思いながら、このシンオウの地を後にした。



●その頃、オーバはというと●
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