椅子に腰掛け、ゆったりと身体の疲れを癒していた時、侍従が一人の捕虜を連れてきた。衣服は最低限白い肌着のみ身に纏うことを許され、髪は戦闘の混乱でだらしなく乱れてしまった女を部屋の中ほどまで誘導させると、俺は手を振り侍従を下げた。
俺は侍従が退出する姿を見送り、扉が完全に閉じ、二人きりの状態になってから漸く口を開いた。

「お前の一族の者は皆、俺の手によって死に絶えた」

無言で部屋の真ん中で立ち尽くす女に俺はそう宣告した。
俺が敵国の城で、王族の者をわざわざ一人だけ生かし、捕らえたのは、単に余興の為だった。もし、この場で力なく泣き崩れたならば、扉の外に控えている侍従を呼び出し、今すぐ首を刎ねさせよう。命乞いをし慈悲に縋ろうとしたならば、足を舐めさせた後に首を絞めて殺そう。これまで俺が手を下すまでもなく、絶望に耐えきれず舌を噛んで死んだ者もいた。
これは単なる興だ。滅んだ国の王女など、俺にとってもはやただの玩具でしかない。これまでの者たち同様、貴様はどんな絶望を見せてくれるのか。目の前の女が、どのような痴態を晒すのだろうかと想像を膨らませれば、愉快でたまらず笑みがこぼれた。

しかし、その表情からをよく見ようと立ち上がり、近づいてみると、蝋燭の熱い炎に照らされた彼女の表情は、俺の想像とは全く異なるものだった。

「まだよ、私が生きている限り、私の一族は死に絶えてなどいないわ」

張り詰めた空気の中、そう口にしたのは、自らの国が滅んだとは思えないほどの強さを瞳に宿した女だった。

「私は、どんなことがあろうと、どんなに堕ちようと、必ず生き延びて、私の大切な人たちが守ろうとした祖国をいつかきっと取り戻してみせるわ」

国を亡くし、全てを皆殺しにした相手を目の前にしてなお、王女であろうとする者がそこにはいた。
この女は、これまで俺が手をかけてきた者たちとはまるで違っていた。国を滅ぼされ、自身の身分など何の価値も無くなり、誰一人として味方がいない状況下でさえ、毅然とした態度で敵と対峙することができる女はそういない。
しかも、こいつは俺を目の前にして死ぬ気などさらさらない。この俺が命の手綱を握っているのにも関わらず、俺を恐れず対等に会話をしようとするなど、小癪だがこれまでになく面白く、少しは楽しめそうだ、俺はそう感じた。

「貴様はあくまで絶望しないというのか」

誰ともわからぬ兵士に服を剥ぎ取られ、下着同然の薄い着物のみを纏い、辱められてなお、高貴であろうとする気高さをこの手でどのように捩じ伏せてみせようか? これだ。こうでなければ面白くない。嗜虐心をくすぐられ、ふつふつと湧き上がってくる悦びに、たまらず奥歯を噛み締めた。

「私の命は、自らの命を投げ出してまで私のことを守ろうとしてくれた人たちの命で今、繋がっている…私は、生きている限り、どんなことがあっても決して諦めたりなどしない」

目の前の女の瞳が炎に照らされ揺らめいていた。王女の唇は一文字に閉じられており、そこからは固い意志が感じ取れた。

「良いだろう。俺は、何もかも奪われてなお、諦めないお前が絶望する姿を、この目で見たくなった」

俺は、目の前の王女にそう言い放つと、彼女の腕を掴み、乱暴に寝具の上に放り投げた。突然天地が変わり、驚いて身動きが取れない彼女の傍にゆっくりと腰を下ろす。投げる為に彼女の腕を掴んだ瞬間、女の腕とは何とか細く、非力なのだろうと感じた。剣などを握る為のものではない。大切に守られ、保護される者の腕であった。
今日まで、どれほどの者たちがこの女を守る為にその命を使って来たのだろう。その者たちの費やした労力を、時間を、これから俺は無慈悲にも踏みにじっていくのだ。
俺は、先ほど対峙した際の凛とした強さと比べ、女の身の、あまりの頼りなさに驚きを感じていた。どんなに強気で気高くあろうと所詮は女なのだ。この俺に敵うはずなどない。

「お前の希望とは祖国の再興なのだろう。
そしてお前が生きていること、お前が血を絶やさぬことが、また、祖国を失った貴様の民の一縷の望みだろう」

俺は、彼女の身、そして視線さえ、どこにも逃がさないよう真っ直ぐと見据え、語りかけた。
人とは、美しい花があれば、手折りたいものだ。気高さなど、この俺の前では無力に等しいことを、この立派な王女にわからせるのは容易なことだった。
女の白い肌着の裾部分から、服の中へするりと手を伸ばし、柔らかな下腹部を撫でる。王女は驚いた表情を浮かべ、必死に俺を振り払おうとしているが、抵抗などさせない。容易く彼女の腕を絡め取ると、強気な表情が消え、瞳には怯えたような色が映った。ああ、そうだ、俺はこの目が見たかったのだ。心臓の鼓動が高鳴るを感じた。

「一筋の光とも言える貴様の子が、貴様の全てを奪ったこの俺の血を受け継ぐ者だとしたら」

乱れた髪が白く綺麗な首に掛かっている。髪の毛を掬ってやると、先ほどと打って変わって、目の前の女は随分としおらしくなり、女らしい顔をこちらに見せていた。背中のあたりにぞくりと突き抜けるような感覚が走った。硬直する彼女の下腹部を優しくゆっくりと撫ぜた。


「お前の国は、どう足掻いても俺のものだ」


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