※性表現有り

















まるで一人でしているみたいに、身勝手に己の欲を貪る彼が少し恨めしくて、抱きしめている彼の、まるで草原にいる獣のようにしなやかで力強い背中に軽く爪を立てた。

私の広い寝室に、消えるように響く擦れるシーツの音、ベッドの軋み、思わず漏れる私の声、あなたの息。
月明かりに照らされたあなたの顔には、うっすらと汗が滲んでいて、いつの間にあなたはそんな大人っぽい表情をするようになったのかしら、と一生懸命に私の身体を求めるあなたを見ていて、お腹の奥の方がきゅんと熱くなるような気がした。
まぐわう中で恍惚の表情を浮かべる私の顔をまじまじと眺めていた彼は、更に劣情を掻き立てられたのか、私の方に身体を引き寄せ、より一層激しく攻めたててきた。私は彼の首に両腕を回し、身体を密着させるよう促した。私の耳元に掛かる彼の息は荒く、切なげで、どうしようもない愛おしさがこみ上げた。目の前のあなたはなんて可愛いのだろう、ぼんやりそんなことを考えた。

向かい合う間、私が何度あなたの名前を愛おしげに囁いても、あなたは私の名前を呼び返してくれもしない。あなたはただひたすらに私の身体を貪り続けていた。
それでもいいの。私はとても幸せだわ。だってあなたと私の間には、他の誰にも越えられない深い絆が横たわっているのだから。そう、私はあなたとの間に他の誰にも、どの女にも越えられない繋がりを持っている。私はあなたの特別に違いないのだ。それは他でもない私たち同士が良く理解していることだった。
ああ、なんて運命の悪戯なのかしら、そう思うとともに、あなたと同じものを共有しているという事実に身震いしてしまいそうになる。こんな私は狂っているのかしら。
あなたの子どもを身籠りたい。あなたの子を孕めたら、どんなに幸せだろう。ベクター、私はあなたの全てが欲しい。これは欲張りなんかじゃないわ。女なら誰しも思う事なのよ。

そんな思いが叶うかどうかはわからないけれど、それまで激しかった彼の動きは止まった。彼は私に覆いかぶさったまま暫くじっとして、息を整えている。今日はこれでおしまいね。私は身体の中に熱いものを感じながら彼の頬を優しく撫でた。喜ぶでもなく嫌がるでもなく、彼はただ私に撫でられていた。少し呼吸も落ち着いてくると、彼はもぞもぞと動き始めた。無慈悲にするりと引き抜かれていく感覚が切なくて、私は思わず声が漏れた。

行為を終えた後の彼はいつも気まぐれな猫みたいに少し素っ気ない。まるで最初から私に興味がなかったみたいに私のことを放って、ベッド近くの椅子の元へと行き、私の部屋へと入室した際、侍女に予め用意させていた新しい着物を手に取った。

彼は服を着終わると、いつも何も言わずにこの部屋を立ち去る。私はこの時が嫌いだ。切なくて見ていたくなくなる。でも彼が愛おしいから、やはり最後の最後まで彼の姿を目に焼き付けてしまう。このまま時が止まってしまえばいいのに。もしこの瞬間、時を止められるのなら、悪魔に魂を売ってもいいわ。そんな恨みごとを頭の中で並べながら、彼の後ろ姿を見つめていた。
彼は私に背を向けて、肌着を身につけながら、今日初めて私に言葉をかけた。

「ゆい」
「何でしょうか」

今日は珍しく、彼の言葉を聞ける。思わず胸が高鳴った。

「隣国の王子がお前に結婚を申し込んできた。受けろ。受けてあの国の情報を俺に送れ」

そう言い終わると同時に着替え終わった彼は私の返事を聞かぬまま、私の部屋から出て行った。静まり返った部屋にはベッドから床に落ち、乱雑に散らかった私の肌着と彼の脱ぎ捨てた肌着と、何も身につけていない裸の私だけが残された。そして私は一人ぼっちの空虚な部屋で、ぽつりと先ほどの返答をした。

「わかりました、お兄さま」


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -