いつもお花が咲いたように笑っていた僕の美しい姉様は、僕よりずっと小さな身体になって帰ってきた。

トロンと同じような、小さな子供のような身体になって帰ってきた姉様は、可哀想なことに僕のこと、家族のこと、そして自分自身のことさえも忘れてしまっていた。

「姉様、僕が必ず元に戻してさしあげますからね」

姉様が好きだった花々が美しく咲き乱れる温室で、僕たちはティータイムを過ごしていた。この温室は姉様の気が少しでも紛れて、昔のことを思い出してくれればと思って、僕が姉様のために手をかけて作ったものだ。
でも、姉様は僕が育てた温室の花を見ても決して喜ぶことはなかった。姉様は戻ってきてからいつもどこか憂いているような表情だった。今も僕とあまり目を合わせることもなく、ただ、目の前に置かれたお茶が冷めていくのを黙って眺めていた。姉様、どうか悲しまないで。僕がきっと姉様を元に戻してみせるから。姉様は何も心配しなくていい。だって僕たちは本当の家族なのだから。いつかきっと元の普通の家族に戻れるはずだ。そのために今僕たちは頑張っているのだから。姉様もきっといつか笑顔を取り戻してくれるはずだ。僕は目の前にいる小さな姉様を、大切な家族を二度と手放すまいとあの日、姉様が帰ってきた日に誓ったのだから。

僕は姉様と同じ時間を過ごせるだけでとても幸せだった。
やはり家族というものは一緒にいてこそのものなのだ。そう思いながら、僕は淹れたばかりの温かい紅茶を含んだ。

「ミハエル」

姉様が僕のことを真っ直ぐ見つめて、僕の名前を呼んだ。

「何ですか、姉様」

僕は心を踊らせ笑顔ですぐに姉様に返事をした。しかし姉様はそんな僕に対して、相変わらず切なそうな表情を浮かべてこう言い放った。

「私をここから帰して」

その言葉を聞いて、幸せなひと時から一気に突き落とされた。頭を鈍器で殴られたような感じがした。一気に血液が脳に集まるような感覚を覚えた。ああ、目の前の姉様は、また何回目かわからない駄々をこね始めた。
僕は怒りにまかせて乱暴に席を立ち、テーブルの上に載せていたティーカップをソーサーごと払い落とした。カシャンとガラスが割れる乾いた音が温室に響き、中のお茶は床に飛び散った。姉様はその音に驚いて、こちらを見上げた。僕は堪らず、姉様の横に歩み寄って声を荒げた。

「なんで元に戻りたくないんだ! 僕たちは家族なのに!」

口を開けば「帰りたい」としか言わない姉様に苛立ちを覚えずにはいられなかった。姉様の帰ってくるべき場所はここ以外にないはずなのに、なぜそれがわからないのですか。僕には理解できなかった。姉様は急に怒鳴り声を上げた僕に怯えながら、続けていつも通りの言葉を呟いた。

「ごめんなさい、
でも、私には大切な『家族』がいるの」

姉様は僕から目を逸らして、目を伏せながら、か弱い声でそう呟いた。僕は姉様の視線を逃すまいと姉様が腰掛けている目の前の床に片膝立ちになって、顔を覗き込んだ。姉様の言う「家族」とは、僕たちのことではなかった。姉様は異世界から戻ってきた際に、トロンとは違い記憶を全て失ってしまっていた。そしてその時、拾われたのだ。僕たちではなく他の家に。姉様は、そいつらのことを「家族」と呼んだ。そして僕ら本当の家族のことは決してそう呼ぶことはなかった。なぜだ。僕はこんなに姉様のことを思っているのに。僕は小さく拳を握った。

「僕は姉様のことをこんなに愛しているのに!」

姉様は僕がどんなに姉様のことを思っているのか、わからないのですか。僕たち家族がバラバラになって、僕とW兄様が施設に引き取られ、その間どんなに優しかった姉様のことを思い、恋い焦がれて僕が施設のあの硬く冷たいベッドの上で枕を濡らしたのか、わからないのですか。僕はわからず屋な小さな姉様に怒鳴りながら、目頭が熱くなるのがわかった。
すると、姉様はごめんなさい、といつものように謝った。姉様はこんなに小さいのに本当に強情だ。僕が何と言っても、どんなに僕たちが本当の家族だと言っても、結局あの赤の他人の家族に戻るつもりなのだということがさっきの謝罪の声色でわかった。でも僕はそんなの絶対に嫌だった。

「姉様は僕のものだ、絶対どこにもやらない!」

僕は目の前に座る姉さんを腰に腕を回し、乱暴に強く抱きしめ、膝に頭を乗せ、まるで小さな子どものように押し付けた。折角僕の家族が元に戻ろうとしているんだ、姉様と離れ離れになるなんて二度とごめんだ。姉様をどこかにやったりなんか絶対するものか。僕の生きる意味は家族を元に戻すことだけだったのだから。





ゆいは彼女の膝に縋るミハエルを憐れむように頭に手を伸ばし、髪の毛を撫ぜた。

「ミハエル―私の可哀想な、弟」
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