※ 流血表現











さて、どこから話し始めましょうか。話は長くなりますが、やはり最初から話すのが良いでしょう。
ある日ゆいは唇を怪我していました。僕はそれが可哀そうで、何となくまじないのつもりでその唇にキスをしたのです。
すると、不思議なことに彼女の血は、とても甘かったのです。僕は、驚いてその日、そのことについて触れることはありませんでしたが、それ以来、彼女の血の甘さについてずっと考えては舌の上で彼女の血の味を反芻していました。

「V、いたいよ」
「ごめんなさい、ゆい、ごめん」
「いた、い」

斯々然々といろいろ説明すると、ゆいは優しいので最初から指に針を刺して、そこからぷつ、と溢れてきた血を僕に差し出してくれましたが、それでも差し出された指先に吸い付くだけでは何となく僕は満足できなかったので、今度は首筋に噛みつく方法に落ちつきました。それはゆいに強い痛みを与えるらしく、とても嫌がられましたが、ゆいは痛がっている姿も可愛らしいので、僕はとても満足しました。
女の子って、みんなこんなに甘い血の味をしているのでしょうか。少なくとも僕の血の味はただの鉄っぽい味しかしません。でも僕は他の女の子を試してみようとは思えませんでした。だって、気持ちが悪いじゃないですか。想像しただけで胃酸がこみ上げてくる。ゆいは僕のことを気狂いだと表現しましたが、僕にだって分別はあります。獣ではありません。
ある時僕があんまり甘い甘いというのでゆいは気にして血液検査をしてみたようですが、血糖値は正常そのもので、他の人のものと、無論僕のものともほとんど変わりませんでした。なのに、こんなにも甘い。やはりゆいは特別な存在なのです。

僕たちはある日デートに行きました。
その途中、ゆいは足をひっかけて、危うくこけそうになりました。もう少しでゆいは怪我をしてしまうところでした。危なかった、とへらへら笑っている彼女を見て、僕はとても不安になりました。僕はその時悟ったのです、外には危険がいっぱいだと。ゆいが歩こうものなら棒に当たらないこともありません。ゆいが棒に当たって怪我をするというのもとても耐えられないのですが、それよりも何かに巻き込まれてゆいが死んでしまうことがとても怖くなったのです。
足をひっかけたのだって、もしそれが大通りで、車が倒れ込んだゆいに突っ込んで来たら? ゆいは僕が思っている以上にひとりでは何もできないので、きっと死んでしまうでしょう。とにかくあらゆる状況を想定しただけでも体中の血の気が引いていくのがわかりました。とにかくとても困ります。
僕は慌てて彼女の手を掴んで、家へと戻りました。僕に掴まれたゆいはただ戸惑って僕に話しかけてきていましたが、無自覚な彼女に少し苛立ちを覚えました。

僕は外の世界の危険をゆいに教えました。すると大体僕の言いたいことが分かったゆいは「つまり、もう外には出るなってこと?」と答えました。僕が「そうだ」と言うと「そんなことはとても無理だ」と僕の提案をあっさりと突っぱねたのです。
加えて彼女は僕とはもう会えない、と言いました。僕は困惑しました。何故、僕はこんなにも君を愛していて、君を守ろうとしているのに、どうして君はそこからまた危ない世界へと行こうとするのだろうか、と。僕には訳がわかりませんでした。
それはやはりゆいが僕が思ってる以上に無垢で無知だからかもしれません。だから僕は何もわかっていない彼女をこの世界から守るために、ゆいを捕まえておくことにしたのです。

それからというもの僕はとても晴れ晴れとした気分で生活することができました。今の生活はなんて幸せなのだろうと思います。ゆいが死ななければ、ゆいはずっと僕の傍にいて、僕はゆいを愛し続けることができるし、ゆいの甘い甘い血液もずっと僕のもの。ああ最高だ。世界はこんなにも幸福に満ち溢れているなんて!
でもゆいはときどき堰をきったように泣くようになりました。僕は訳もわからずゆいを抱きしめて落ちつくまで傍にいました。
僕はある時あまりに苦しそうに泣いているゆいが可哀そうになって、頬を流れる涙を吸い取るように彼女にキスしました。僕は驚きました。

ああ、ゆいは涙も甘い。



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