―私は馬鹿だ。
土曜の昼間っから私はトイレの便座にしがみつき、力無く項垂れていた。ああ、死にそう。やらなきゃ良かった。もう絶対しない。ぐらぐらする頭でぼんやりそんなことを考えていた。しかし押し寄せた嘔吐感にすぐ、そんな思考をする余裕すら奪われた。
死にかけの私の背後で、私の様子を見に家にやってきてた博之がまたかと言うような顔をして私の背中をずっとさすり続けていた。

「ごめん…博、之…」

「病院、行きましょうよ」

胃洗浄してもらった方が良いですよ、きっと。呆れたような声色で博之は私にそう勧めた。

「やだ…」

私はほんの1、2時間前にいつもにまして物憂いな気分になって、なら死のうかな、なんて単純な発想で大量服薬をした。我ながら大胆すぎ、かつ後先を考えない愚かな行為だった。いつものことだけど。ただの市販薬でも量を増やせばそれはれっきとした毒になる。死ぬのに失敗した私が得意気に言うことでもないが。そう、この量では私の致死量に届かなかった。馬鹿だ。私は初めからその薬の致死量を知らなかったのだ。そりゃあ、失敗するはずだ。本当に、馬鹿だ。なんだか肌が寒くて、気持ち悪いだけ。いつもこうだ。今更後悔しても遅いけど。

「やだ、絶対、…いかない…」

「肝臓に負担がかかるんですよ、こういうの。
いつか死にますよあなた」

「だって…死ぬつもりだった……ああ、もう…駄目……」

こみ上げてきたものを堪えきれず便器に向かって吐き出すと、べちゃ、という生々しい音がトイレに響いた。それとともに生理的な涙が出た。口の中に胃液の酸味が広がり、吐瀉物独特の臭いがトイレ内に広がった。情けないのもあって続けて涙があふれた。唇は紫色になるわ、ゲロは吐くわ、涙は止まらないわ、もう無茶苦茶だった。
すると、博之は立ち上がって何処かに行ってしまった。こんな状況にある私を置いてどこかに行くなんて、と自分勝手に悲しくなった。博之はもう私のことを呆れて、見捨ててしまったのかもしれない。まあ、そうならもう、それでいい。
私のこの世の未練と言えば、博之のことだったのだから。

トイレに一人取り残され、うずくまる私の姿はなんて惨めなんだろう。昼間の柔らかな陽気と鳥のさえずりさえ聞こえるほどの静けさが余計私を寂しくさせた。

…私は、本当に一人ぼっちになってしまったんだ。

嘔吐感で手放してしまいそうになっている意識の中で、そう思った。途端、私は悲しくなってしまった。流していた涙は一層溢れた。

「ひろゆきぃ…」

何でこんなに悲しいんだろう、自分で死にたいと思っただけなのに。博之が私のことを見捨てたのが悲しいのかな。
…うん、そうだ。
本当は…私、本当はこうすることで博之の気を引きたくて必死だったんだから、
博之が部活ばっかりで、私の相手をしてくれないから、
寂しかったから、
一緒に居たかったから、
だからこんな馬鹿なことをして、博之を困らせていたんだから、
でも、もう気を引きたかった彼にはうんざりされてしまった、
…嫌われて、しまった…



「…ゆい…水を入れてきました…口の中、気持ち悪いでしょう」

「…」

「ゆい!」




…私は、本当にどうしようもない馬鹿だった。





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