「私はこの世界が嫌いなの」
ことあるごとにあなたはそう言った。そしてその度に僕が何故かと訊ねると
「悲しいことが多すぎるから」
あなたは決まってその台詞を言い、自嘲して他には何も言おうとしなかった。
確かに世界には良い部分だけじゃなくて嫌な部分や目を背けたくなるような醜い部分もある。
けれどそれでも人に生きていく希望を与える幸せの欠片は小さくても僕たちの足元にいつも転がっている。そういうものなんだ。足元だけじゃない。見上げたところに友達がいて笑顔であなたに手を振っているかもしれない。どうしてそれに気がつかずに、あなたは嫌な部分にばかり目を向けるのか。僕だって、こうしてあなたの傍にいるのに、どうしてあなたはいつも一人ぼっちのつもりでいるのか。
どうしてあなたは世界の汚い醜いものばかりを見ようとする。
どうして必要以上にあなたの心を黒で塗りつぶそうとする。
別に僕たちはまだ子供で、そんな苦しいことに目をやらず、利己的に自分の回りのことだけを考えて生きていればそれで十分なのに。
もっと妥協して生きればいいのに、もっと何もかもを許して生きればいいのに。
息をすることさえままならなくなるような生き方を、どうして自ら選ぼうとする。
いっそのこと、僕がゆいの自由を奪ってしまって、あなたの何もかもを決めてしまえば、ゆいを苦しみから守ってやれるのではないかとすら考えた。けれど、それでは根本的な解決とは言えない。
結局、僕にできることは、傍にいてゆいを見つめていることだけで、これはゆい自身が変わらなければどうにもならないことだった。
ただ、その変化の芽生えを待つにしても、その前にゆいが壊れてしまう可能性を、僕は懼れた。
どちらに転ぶかわからない結末に、僕はただゆいが幸せになる未来を望んだ。
願い事を叶えるなら、
(どうかゆいがこの世界を愛してくれますように)
(僕はゆいに出逢えたこの世界を愛しているから)