外出から戻り、夕食の支度をしている名前。
彼女に向かって、ダイニングキッチンのカウンター越しにチョコラータがじろりと嫌な目つきを送った。

「名前、男と寝て来たな」

彼女はその言葉に答えず、フライパンの上で音を立てて焼かれるステーキ肉の加減を見ている。

「セッコが男とホテルに入るお前を見たと言っていた」

すぐさま追い討ちがかけられるが、それでも名前の表情は変わらない。

彼女が少しも驚いたり慌てたりした素振りを見せないのは、彼と暮らすようになって、こんな問い掛けは既に何度も繰り返されているからだ。
そして事実、つい数時間前、彼女はチョコラータではない男とベッドを共にしている。

「おい、いい加減返事したらどうだ」

だんまりを決め込む名前に苛立ったチョコラータが声を荒げた。
そこでようやく彼女が口を開く。

「ええ、仰るとおりです。今日も浮気をしてきました」

テーブルに皿を並べるついでだと言うふうに、食器類をチョコラータに渡しながら名前はさらりと告白する。すると浮気という言葉に反応して、チョコラータの顔が見る見るうちに怒りの色に染まった。

「浮気だと?馬鹿め!私はお前と対等に付き合っているつもりはない」

ガタンと大袈裟な音を立てて力任せに椅子を引き、そこに座るや否や皿の上の牛ステーキ肉にナイフを突き刺す。
切り取った肉片を口に放り込むが、それは怒りにまかせてめちゃくちゃに噛み砕かれた後、まるで味わうこともなく飲み下される。


「いいか?私がこの家にお前を住まわせてやってる理由は家事が出来るからってだけだ。お前は私にとって家政婦に過ぎねえ。だから浮気だなんて恋人じみた言い方は二度とすんじゃねーぞ!分かったか!」

喋りながら興奮し、癇癪を起こした彼はナイフを握ったままの右手を振り回す。
レアに焼かれたステーキの赤い肉汁がテーブルクロスに飛び散った。

名前はそれを横目で見ながら、洗うときに面倒そうだ、などとぼんやり考えている。

「フン、阿婆擦れめ。何を言われようと反省する気はねーか」

またも返事のない彼女に、チョコラータは吐き捨てるようにそう言った。

「だが私には関係ないな。せいぜい馬鹿な男に遊ばれてりゃあいい」

本当に関係ないと思っているのなら、初めから話題にも出さないだろう。

名前は彼の矛盾たっぷりな言葉にくすりと微笑を漏らす。

チョコラータもそれに気付いたらしく、彼女に指摘される前に急いで夕食を平らげ、ダイニングから早々に立ち去った。

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