メローネは自分の体の異変に戸惑っていた。 胃が胸が、むかむかしてどうしようもなく気持ち悪い。 洗面所で何度も口をゆすいで清め、呼吸を整えようと肩で大きく息をする。 なぜだ?なぜ自分はこんなに衝撃を受けているんだ。 名前とプロシュートのキスシーンを見てしまった、ただそれだけのことなのに。 例えようのない嫌悪感。 あの二人がそんな関係だったなんて、全然知らなかった。 二人について考えを巡らせる。 プロシュートはあんな成りをしているだけあって近寄ってくる女はとても多い。 そのせいで女関係が事実以上に派手に見られがちだが、仲間に遊び半分で手を出すような男ではないはずだ。 それはメローネもよく知っていた。 名前の方も、今まで男のことで悪い噂など一度もなかったような女だ。 きっと彼らはお互い本気の付き合いをしているのだろう。 ではなぜこんなに嫌な気分になるんだ? 服の袖で口元を拭いながら自問自答する。 何も嫌悪することはない、二人は清く正しい関係でいるのに。 そう考えた時、ぐっと込み上げてきた胃液にメローネは慌てて洗面器に顔を突っ込んだ。 胃の中の物を全て出してしまった後も、頭の中では二人のことばかり延々と巡らせている。 もう耐えられない。 そう思うのと同時に携帯を取り出し、アドレス帳の一番最初に登録されている女に電話をかける。 彼女がどんな女だったかメローネは顔も覚えていないが、彼の携帯には元より自分から声をかけてくるような女以外登録されていないので問題はない。 そして案の定、その顔も知らない女は夜の誘いに簡単に応じた。 女の獣欲に喘ぐ顔を名前と重ね合わせて見る。 プロシュートと重ねた唇を離し、はにかんで笑っていた名前。 その目はメローネの存在に全く気が付かなかったほど、目の前の恋人以外見ていなかった。 「ああっメローネ、激しいっ」 女の嬌声が短い回想を終わらせる。 「イイの、すごく気持ちイイ」 名前はこんなはしたない声など出さないだろう。 現実に引き戻されても尚、メローネの思考は名前のことに支配されている。 彼女はきっと恥じらいながら、そしてあのはにかんだ笑顔でプロシュートを受け入れるのだ。 「もういい、気分が悪くなったから出ていってくれ」 上に乗っていた女の身体を衝動的に突き放し、金を渡すと女は憤慨して二三言罵声を浴びせながら出ていった。 汚らわしくてたまらなかった。 女の感じる顔が、声が、なにより自分自身が。 「でも仕方ないよな」 一人の部屋で呟く。 所詮自分はこんな人間なのだ。 今まで女相手に散々酷い事をしておいて、普通の恋愛に憧れるなんておかしいじゃないか。 いつの間に下らない夢を見るようになっていたんだろう。 メローネは笑おうと思ったが笑えなかったので、これ以上惨めな気持ちになる前に寝てしまおうと大量の酒を煽った。 |