手作りのお菓子なんかいきなり渡されて、チョコラータはどんな反応をするだろうか? 驚くだろうか、笑うだろうか。 素直に喜んでくれることはまずないだろう。 そもそもちゃんと受け取ってくれるどうかさえ怪しい。 甘いチョコレート菓子なんかより、由来となった司祭の処刑のような血生臭い話の方がずっとお似合いな彼のこと、「愛の祭典」なんて、如何にも馬鹿にして嫌っていそうだ。 そんなことを考えていても、バレンタイン前のうきうきとした気分は消えなかった。 名前は人体実験をしている時以外では一度も見たことがない、心から喜ぶチョコラータの顔を想像しながら、明日のために忙しなく手を動かしている。 作っているのは、酒好きの彼のためのラム・トリュフ。 ビターチョコレートを使って、甘さは控えめに、ラム酒の香りが引き立つよう工夫する。 その分セッコにあげるカップケーキの方には砂糖をたっぷりと使って、そしてどちらも可愛いハートの箱に入れ、カラフルな包装紙とリボンでラッピングする。 セッコのリボンは黄色、チョコラータのは鮮やかな赤だ。 こういうところで義理と本命、少し差別化を図ってみてもいいよね。 きっと彼は気付いてくれないけど、全くの自己満足だけど。 それでも名前は自分のその案を名案だと思い、楽しくなってふふ、と軽く笑った。 「これ、受け取ってください」 次の日名前は少し余所行きな顔で、改まった口振りでそう言って彼に包みを差し出した。 「なんだ?これ」 予想通りの冷たい返答と冷たい視線にも怯まずに、「チョコレート。バレンタインの」と答える。 「ああ、昨日ごちゃごちゃしてたのはこれだったか。 本当、女ってヤツは下らねーことが好きだな」 包みがチョコラータの手の中にあったのはほんの数秒で、彼がそう言うのと同時にそれは近くのテーブルへぽいと投げられた。 綺麗にセットしたトリュフはきっと、中でめちゃめちゃに転がって、お互い押し潰しあっているだろう。 あーあ。 けれど名前は少しため息を吐いただけで、特にそれ以上ショックを受けたりはしなかった。 チョコラータの度々の嫌がらせに訓練されている名前は、既にその程度では全く傷ついたり落ち込んだりしない。 寧ろ着地点がゴミ箱でなかっただけ随分まともだと思った。 「はい、こっちはセッコのね」 チョコラータとは対照的にセッコはケーキの甘い匂いを嗅いだ途端大喜びで名前の手から箱を引ったくり、一瞬にしてリボンも包装紙も一緒くたにびりびりに破いて中のカップケーキを貪った。 「もぉっとぉぉ!もぉぉおっとぉぉおお!」 そしてすぐに平らげてしまい、新しいお菓子を欲しがる。 「美味しかった?」 「うん、うんうんうん!だから、もぉおっとぉ!」 「ごめん、同じのはもうないや」 美味しいと言われて悪い気はしない名前だったが、しかしないものはないのだ。 そう言われても諦められないセッコは、今度はチョコラータにねだりだした。 名前に貰ったチョコレート、食べないのなら俺にくれ、というわけだ。 「だめだセッコ、それは私の物だ」 しかしテーブルの包みにセッコが手を出した途端、チョコラータがぴしゃりと言う。 まるで自分がチョコラータの物だといわれたような気がして、名前はぴくりと反応した。 「ええええ!やぁだやぁぁぁだぁぁ」 「後で甘いの三つ、投げてやるからな。 背中もかいてやるから、我慢しろ」 そう言って、いつものようにセッコを上手くなだめるチョコラータ。 名前はどきどきと高鳴る胸を抑え込んだ。 |