名前が持ち出したそれにアバッキオは露骨に嫌な顔をした。 「…何だ、それは」 「見て分かるでしょ」 手の上で軽く弄ぶとガチャガチャと金属のぶつかり合う無粋な音が鳴る。 それは鈍く銀色に光る手錠だった。 アダルトショップなどに売っているようなチャチな玩具ではない、れっきとしたホンモノ。 そんなことを説明しなくても充分分かるはずの元警官は、それを一瞥した後、視線を名前の目にしっかりと据えギロリと睨みつけた。 「てめえ、一体どういうつもりだ」 「遊びに誘ってるだけ。嫌なの?」 怖い怖い。 彼の刺さりそうなくらい鋭く尖りきった目つきに、名前は思わず唇の端をぺろりと舐めた。 彼女とて、彼が過去の職に嫌な思い出があるのは知っている。 知った上でわざと煽るような真似をしているのだ。 「…ああそうかよ。ならお望み通り遊んでやるよ」 「そう来なくちゃね」 喜びに歪んだ口元に、アバッキオは眉間の皺を一層深く刻みながらも彼女の挑発に応じた。 引き千切るようにして服を脱がされ、彼の大きな体躯に乗られた名前はシーツの海に沈んだ。 噛み付くようなキス。 愛情や気遣いは一切感じられないそれに、息継ぎの出来ない名前はこのまま彼に窒息させられてしまうんじゃないかと思う。 「こうされたかったんだろ」 手錠で左手首とベッドの脚が繋げられた。 傾いて、身体は体重で下にずり落ちそうになる。 それを無理矢理引き戻され、無慈悲な鉄が手首を擦り赤い傷を作った。 「変態のマゾ女め」 耳元で吐き捨てるように言われ、そのまま耳朶を噛まれる。 「痛い!」 叫んでも歯は離れず、よりきつく力をこめられる。 じんじんと染み入るような痛みが続き、やがてそれも麻痺した。 「あっ…」 漸く歯が離れた後は滲んだ血を丁寧に舐められる。 蠢く舌の感触が擽ったく、鼻にかかった声が漏れてしまう。 「っ、はぁ…」 「痛くされて感じてんのか?流石だな」 罵倒と共に浴びせられる冷たい侮蔑の視線。 名前は屈辱に心が折れそうになるのを堪えた。 |