聖夜、良い子の家には赤い帽子の老人が訪れるはずの時間。
名前は喉の渇きを覚え、チョコラータと一緒のベッドから抜け出して二階の部屋からキッチンへ向かった。

「ん?」

冷蔵庫から出したミネラルウォーターを喉に流し込んでいると、隣のリビングからがさごそと物音が聞こえてくる。

サンタクロースがうちなんかにくるわけない。もしかして泥棒?だとしたらなんて不運な奴。

いつでも二階のチョコラータを呼べるよう気を引き締めながら、そろりそろり、足音を忍ばせて近付いてみると、なんのことはない、よく知った猫背の背中が見えた。

「セッコ。なにやってるの」

「んあ?」

彼はいきなり声をかけられ無防備な表情のまま振り向いた。
その口元は緑色のべたべたにまみれて、手には目の前のクリスマスツリーからもぎ取った緑と白のストライプのキャンディケーンが握られている。

その小ぶりのツリーは「クリスチャンでもない癖に馬鹿みてえにはしゃぐな」と、うちではクリスマスは祝わないと言うチョコラータに、名前がせめて雰囲気だけでも味わいたい、と昨日セッコと二人で飾り付けしたものだった。

「あー、まだ食べちゃだめだって言ったのに」

「ん、んぐ」

つまみ食いを見つかったセッコは何か言い訳しようと慌て、先ほどまでガリガリ噛んでいた飴の破片を飲み込んでしまい、驚いて目を白黒させた。

「ふふ、あわてすぎ」

名前はそこにすかさずキスをする。

重なった唇の隙間から侵入し、セッコの舌を捕らえると、そこからすうっと爽やかな冷たい甘味が広がった。

「ペパーミント?」

「うひッ…あたり、だ!」

そう言って顔を見合わせて笑う。
それがセッコの気に入ったので、二人の遊びは続いた。


色でバレないよう後ろを向いてツリーから交互にキャンディを選び、セッコはそれを噛み砕き、名前はぺろぺろと舐めてからお互いの舌を絡ませ味を当て合う。

「んーと、えーと…チェリー?」

「ううん、ブルーベリー」


「お前らうるせーぞ」

そうして暫くセッコとじゃれていると、チョコラータが不機嫌そうな顔で階段を降りてきた。

今起きてきたばかりのように眠そうなふりで欠伸をしているが、名前は知っている。
彼が数分前から壁の影へ隠れてこっそり盗み見していたことを。

嫉妬して監視するくらいなら一緒に住もうだなんてよせばよかった
のに。

今でこそ扱い方に慣れて仲良く一緒に遊べるようにまでなったが、初めてセッコと引き合わされた時は大変だったことを思い出し、名前は心の内でチョコラータに嫌味を言う。

「名前、そんな甘え物ばっか喰ってたら太るぞ」

セッコのことは叱らない癖に。
チョコラータは案外分かり易かった。

名前も名前で内心悪態を吐きつつ彼のそういったところが満更嫌いではなかったので、無言で「来い」と言っている背中に素直について二階の部屋に戻って行く。


「…フンッ」

楽しい遊びを中断されたセッコは、やけ食いのように残りのキャンディを名前の食べかけの分まで全部噛み砕いてから、自分も部屋に寝に行った。

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