何が彼の琴線に触れたのか知らないが、二、三度言葉を交わしたことがあるというだけの関係にも関わらず、名前はメローネに気に入られていた。

と言っても、特別な女性として好意を持たれているのか、それとも沢山のお気に入りの内の一人に過ぎないのか、どちらなのかは分からない。
とにかく少なくとも頻繁に夜、部屋のドアをノックされるくらいには好かれていることだけは確かだった。

まだお互い、普段何をしている人かすら知らないのに。

あまりにも順序を飛ばし過ぎている行動に、名前はメローネをよっぽど常識のない人なのか、もしくは単に自分をからかっているのだろうと思っていた。

元から軽い男が苦手なのもあって、彼女は彼がアパートを訪ねてきても相手にせずすぐ追い返すようにしていたのだが、しかし今夜はそういうわけにもいかなかった。

朝に突然、メローネから「年の数だけ包んだ薔薇の花束」なんて物を贈りつけられたのだ。

勿論、今日が誕生日なんてことを彼に言った覚えはない。
わざわざ調べてまでそんなことをする彼に、名前は流石に今度ばかりは声をかけずにはいられなかった。


「なんでそこまでするの?私の何が気に入ったの?散々冷たくされてるのに、嫌にならないの?」

玄関で顔を見た途端、名前が棘のある言い回しを選んで質問責めにしたのに、メローネは嫌な顔一つ見せず、寧ろその質問を待っていたんだと言いたそうに表情を緩ませた。

「お友達になりたいだけだよ。君のその警戒心丸出しの顔とか、俺を嫌ってるところが好き」

本人に直接聞けばすっきりするだろうという名前の期待は残念ながら外れてしまった。

彼の言っている意味が今一理解できない。何と言葉を返そうか。

「とりあえず、お邪魔するね」

そう考えている間に、メローネは彼女の身体を押し退けて部屋内にずかずかと上がり込んだ。


「あ…」

慌てて追いかけた名前の背筋に冷や汗が流れる。

そっちへ行ったら「あれ」を見られてしまう。

リビングのテーブルの上の、半分干からびた花束。
それはまぎれもなくメローネが贈ったもので、丁度良い大きさの花瓶がなくて持て余した結果、水に浸すこともなくそこに置きっぱなしにしてしまっていた。

贈り物をぞんざいに扱った自分に、メローネは憤慨して怒りを露にするか、そうでなくてもきっと文句くらいは言うだろう。
名前は彼の反応を想像して身構えた。


「…あは、あはははは」

ところが予想とは裏腹に、花束を見た彼が発した声は馬鹿笑いのそれだった。
心の底から愉快そうに笑いながら、勝手にソファーに腰掛け、リラックスした格好で脚を組む。


一体何が面白いのだろうか?この男、何かおかしいんじゃないか。

その狂気じみた様子に、名前にはメローネの存在が不気味に感じられた。

しかしそれと同時に、奇妙な興味も沸いてきていた。

この男が何故自分に構うのか。ただお友達になりたくて?そんなはずがない。

本当は何が目的なのかを知りたい。
そしてあのミステリアスなマスクを剥ぎ取って、その素顔を見てやりたい。


「どうしたんだい?こっち来なよ」

何も言わず棒立ちになっている彼女に、メローネはまるで自分の部屋であるかのようにソファーへ横になり、腕を広げた。

「薔薇のお礼がほしいな」

にっこりと微笑みながらそう言われ、名前は少し躊躇する。

彼が求めているものが何なのか、理解しているその上で、それに応えるべきかどうか悩んだ。

メローネは無礼で軽薄そうで、まさに嫌悪すべきタイプの、その上何を考えているかわからない危険な男。
関わってはいけない、近付いてはいけない。

理性はそう警鐘を鳴らしている。

しかし数秒後、彼女の身体は彼のいるソファーの方へふらりと動いていた。


好奇心は猫を殺す。メローネの腕に触れた時、その言葉が名前の頭にぼんやりと浮かんだ。




案の定、ソファで抱きしめられた途端、彼女の着ていた服は彼の手によってすぐさま剥ぎ取られた。
ベッド以外の場所でするのも、電気が点いたままなのに全裸にされるのも、名前にとって初めてのことだ。

「隠さないで。名前の身体、俺に見せてよ」

剥き出しの身体にその言葉がじわりと染みた。





彼の腕の中で、名前はぐるぐると考えを巡らせる。


今までの恋人とは真っ当な男女関係を築いてきたし、裏切るような真似もしたことはない。
だから今夜、一度くらい道を踏み外してもきっと大丈夫。
誘ってきたのはメローネで、自分は何も悪くない。

それに、どうせ今夜だけの遊びの関係だ。遠慮なんか必要ない。

私は今、ただ楽しめばそれでいい。
誘ったのはメローネで、私は何も悪くないのだから。


「あぁ、ん、あ…」

何度も同じ言い訳を自分にしながら、名前は彼の愛撫を受けて娼婦のように声を上げた。




メローネはとても巧かった。

彼の指は女の身体をよく知っていて、感じる部分に的確に触れ、強弱をつけて名前を焦らし、そして悦ばせた。
敏感な肌の上に這わせた舌の動かし方からも、慣れと自信が伝わる。

きっと今まで沢山の女達とこんなことを繰り返してきたんだろう。

名前はそう思ったが、最早そんなことはどうでも良いことだ、とも感じていた。

彼女はメローネの巧みな性技と、「よく知りもしない男に抱かれている」という今まで経験したことのない刺激的な状況に、予想以上に夢中になってしまっていた。




赤黒くいきり立ったぺニスを自ら口に含む。

今までの恋人とは、相手に頼まれたりしない限りこんなことをしようとも思わなかったのに。

自分の行動に少し驚きながらも、彼女は紛れもなくそれを楽しんでいた。


「ん、…んん…」

頬を窄めたり、舌で筋を舐め上げてみたり、口全体を使ってねっとりと扱く。

「…ハァ」

喜ばそうと上目遣いで挑発してみても、彼は何も言わず、名前の顔を見下ろしたまま、ただ眉を寄せて深い息を吐いただけだった。

「んんっ…、う、ん…」

名前はいつの間にか、彼のそんなつれない態度にぞくぞくとした快感を感じるようになっていた。

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