私は待っていた。
暗い地下室の奥で、主人の帰りを一晩中待っていた。


不安な気持ちは一欠片もなかった。
大丈夫、あの方は必ず帰って来る、そう堅く信じていた。

DIO様は飢えと貧しさと劣等感の中で這い擦っていた私を救ってくれた神様だったのだから。
神様が敵なんかに負けるわけがない。

「名前は幸せ者だ」

いつかヴァニラが私にそう言った。

「幼いお前の身体はあの方のお口に入るにはまだ早い。だからこうして生き永らえさせていただいているのだ。そして、いつか美しく成長してDIO様の目や舌を悦ばせられるよう、今から努力することができるお前は幸せだ」

彼の言葉を思い出す度、本当にその通りだと納得し、そして心の底から幸福な気持ちでいっぱいになる。
他人からこんなに必要とされ、大事にされるのは初めてだった。

けれど、そのヴァニラもさっきから姿が見えない。
流石に少し心細くなってきた私は、あてがわれた一人部屋の簡素なベッドから立ち上がった。

小さな窓から薄く光が射している。
コンクリートの床に足音を響かせ、屋敷の出口へ急ぐ。

なぜか迷路がなくなっていて、出口まで全く迷うことなく辿り着くことができてしまった。
いつも門の付近にいるテレンスも、今夜は見当たらない。
叱られないのをいいことに、私は行儀悪くもその場へしゃがみ込んで待つことにした。

「DIO様、まだかな」

待ちくたびれた私の頭上に、大嫌いな朝日が輝いている。

そしてその日、私の世界から神は消えた。

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