ギアッチョが体調を崩した。

とは言っても原因はただの風邪。

寒波の影響で最低気温が零度を下回る日が続いたのにやられたようで、名前はスーツ型スタンドを身に纏っていない普段の彼はなかなか寒さに弱いらしいことを知った。




「次の仕事までお前は少し時間がある。一人で寂しがっているだろうから、見舞いに行ってやれ」


心配性のリゾットから半ば命令気味にそう言われた名前は、勿論自分でも心配であったので、喜んで食材や看病道具を買い込んでその日のうちにギアッチョのアパートへ向かった。



「大丈夫?これ、夕食に。食べたら薬ちゃんと飲んでね」

氷枕を敷いて布団を頭から被りベッドで丸くなっている彼に、名前は風邪薬と体温計、食べ易いよう柔らかめに作ったリゾットをのせたトレイを運び声をかける。


「適当に置いててくれ。あとで食う」

分厚い掛け布団の中で籠もったぶっきらぼうな声がそれに答えた。



病んで弱った姿を見られるのはみっともないとでも思っているのか、ギアッチョは名前の方をまともに向こうともしない。

名前は料理が冷めてしまうことを気にしながら、これじゃあ寂しいのはこっちだ、と彼の態度を少し不満に思った。

しかし病人相手に構って欲しいと我が儘を言うほど子供でもない。

寧ろ余裕がないほど具合が悪いのかと不安になって、「とりあえず熱だけ計って」と体温計をケースから抜き、あちらを向いている彼に差し出した。


「…おう」

ギアッチョは手だけ布団から出してそれを受け取り、ゴソゴソと服の中に突っ込んで、後はまた無言で寝に入る。


名前もそれを邪魔するまいと黙ったので、電子音が測定完了を告げるまで部屋の中は彼のぜいぜいと苦しそうな息が聞こえるだけになった。



「ほらよ」

暫くして彼が取り出した体温計は七度五分を示していて、名前はほっと胸を撫で下ろした。


「微熱…よかった、この分だと安静にしてたらすぐ良くなるよ」

となれば、食事も作り、薬も渡した今、後はギアッチョに必要なのは一晩ゆっくり眠ることのみだ。

気掛かりではあるけれど、自分が横にいてはかえって気を使わせて眠りの妨げになってしまうだろう。

そう考えた名前は、じゃあ私はそろそろ帰ろうと立ち上がった。



「待てよ」

しかしそれはギアッチョの手によって引き留められた。

今日初めて名前の目と合わせた彼の瞳は、熱の苦しみと不安に揺れている。


「…お願いだから、傍にいてくれ」

絞り出したような声。

服の袖を掴んだ手は力が入りすぎて、指先が白くなっている。



「…うん。分かった」

名前はそれ以上何も言わずにベッドの横に座り、安心して目を瞑った彼の、捻れて指に絡む髪を優しく梳き始めた。





結局そのまま添い寝になって、そのせいで風邪を貰ってしまった名前は数日後ギアッチョ共々リゾットに叱られることになるのだが、今は彼の穏やかな寝顔で頭が一杯でそんなことは知る由もないのだった。

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