名前が逃げた。


朝、名前に朝食をやるために小屋へ行ったセッコがしょんぼりと肩を落として、帰ってきたと同時にパソコンに向かうチョコラータに報告した。

それに対してチョコラータは特別驚きもせず、至極落ち着いた様子でセッコの肩に手をぽんと置き、子供を相手するように優しく言い含める。

「いいかセッコ、忘れてはいけない。
お前がいくらペットを可愛がっていても、ペットがお前を愛しているかどうかはわからないのだ。
例えお前が撫でる度に甘えた声で鳴いて、懐いているような素振りを見せても、だぞ」

そこがペットのいいところなんだがな。
チョコラータはそう付け加え、回転椅子の向きをくるりと戻してパソコン画面を見ながらカチカチとマウスをいじっている。

何をしているのか気になったセッコが覗き込むと、そこには名前の写真が映し出されていた。

「今これを色々なところへ送って、名前の行方を探してもらうからな。
組織の情報網はスゴイぞ。もって五日といったとこか」

では名前は見つかるのだ。

チョコラータの言葉に安心したセッコに笑顔が戻り、二人で過去に撮った名前の写真をあれこれ言いながら鑑賞し始めた。



「うお!うお!」

「ん、セッコはこれがお気に入りか?」

セッコが指でつついた液晶画面には、赤い首輪とリードをつけた名前がセッコと仲良く散歩している写真が表示されている。

「じゃあこれを送ろう」

「うお、おう!」


画質を落として軽量化し、それをメールに添付。
送信をクリックしたチョコラータはカップの紅茶をくいっと喉に流し込んだ。




送信中のメールを眺めながら、セッコは考える。
写真の中の名前は、あんなに嬉しそうに顔を歪ませているのに。
チョコラータの言う通りなら、俺は裏切られたのか。

帰ってきたらもう逃げ出したりしないように、もっと可愛がってやらなきゃいけないな。

セッコはそう思って、チョコラータに名前用の新しい玩具をねだった。

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