「あのね、今まで言ってなかったけど、私彼氏いたの。昨日までの話だけど。

うん、昨日別れてきちゃったの。彼、浮気してたから。それで問い詰めたら、じゃあもう別れようって言われて。

彼の部屋で話してたんだけど、すぐ追い出されちゃって。ドア叩いても開けてくれないし、電話かけても出てくれないの。

私は何もしてないのに、なんだか私が悪くってふられたみたいだった。

悲しかったよ。今も悲しい。今朝もここに来るまでずっと泣いてたくらい、まだ辛いの。

…うん、ありがとう。聞いてくれて」



カップを傾け、俺の淹れたコーヒーを一口飲んでから名前は薄く微笑んだ。


こんな話を長々と聞かされて「大変だったな」としか言えない自分に呆れ果てる。

名前に男がいたことにも気が付かなかった自分にも驚き、そしてそんな男にまだ未練があるらしい彼女が信じられなかった。
だが俺が言葉に困っているのは動揺だけが理由ではない。

単純に今の彼女に何を言っていいのか全く見当もつかなかった。


話を終えた名前はコーヒーカップの中のスプーンを意味もなくまわし、持たない間を誤魔化している。


こんな時世間の男達は一体どうしているのだろう?

一刻も早くそんな男は忘れてしまえと助言してやるのか?時が過ぎれば笑い話になるはずだと無責任に宥めるべきか?

それともただ慰めてやる方がいいのか。
どうやって?頭を撫でる?抱き締めてやるべきなのか?


全て正しそうで、全て間違っている気がする。

今までそういったことをあまりまともに考える機会がなかったからとても困惑している。


それにしてもなぜ名前はよりによって俺に話したのだろう。

彼女と色恋めいた話題は一度もした覚えがない。

そういった話はメローネやプロシュートの方が得意そうに思えた。

奴らならメロドラマの相手役のように名前を簡単に抱き寄せて、俺が忘れさせてやるととびきり甘い声で囁けるだろう。


「苦い」

俺の思考に反発するように名前が小さく呟いた。

「なんだ?」

「リゾットのコーヒーは、苦いね」


ティースプーンがくるくると彼女の右手の下に真っ黒な渦をつくっている。

なぜか、飲み込まれそうだと思った。

胸がざわつく。


「そうか、すまないな」


それ以上何も言わない俺に、名前はただこちらを見つめて部屋に来たときよりも更に傷ついた顔をしている。

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