俺に娘がいる。

絶頂の日々に突如降って沸いた衝撃に俺は打ちのめされた。

なんてことだ。

唇を血が滲むまで噛み締めたせいで口の中に鉄臭い味が染み渡る。

直ちに部下に娘を捕らえてくるよう命じたが、その間何もせずにただぼんやりと待っているなど出来ない。
俺は先ほどからずっと落ち着き無く、ホテルの部屋を一人うろついていた。

騒ぎに乗じて恐れていた裏切り者まで出てしまった。
あの暗殺チームの連中、もっと早く始末してしまっていればよかったものを、なぜ今まで見逃してやっていたのか。

立ち止まり、頭を抱える。

ああ。なんてことだ。

このディアボロが。帝王たるこの私が。
たった一人の小娘のせいで、長年掛けて得た絶頂の地位を危うくされている。

そう思うと耐え難い怒りで身が震えた。
甘かった過去の自分自身に対しての怒り。だが過去というものはこの俺の力をもってしてもそう易々と塗り替えられるものではない。

この行き場のない感情をどこかへぶつけたい、そう思った時、ある女の顔が頭に浮かんだ。

それは俺の子を孕んだ過去の女のものでもなく、そしてまだ見ぬその娘のものでもなく、とある一人の部下のものだった。

PCをつけ、キーボードを破壊してしまいそうになるのを堪えながらメールを打つ。

宛名は「名前」だ。



メールを送信した一時間後、階段を女物の靴で駆け上る音が聞こえた。
続いてインターホンの音が響く。

「入れ。鍵は開けてある」

「失礼します」

女が息を乱し、頬を紅潮させている理由は走ってきたからというだけではない。

俺はそれをそのままベッドへ引き入れ、いつものように即座に服も下着も毟り取り、愛撫もそこそこに挿入する。

指示した通り用意をしてきたようでそこは既に濡れていた。

細い体躯をねじ伏せて、絶対的優位の体勢から見下ろす女の顔は妙に同情をひいてそそられる。

名前は瞳いっぱいに俺を映し、眉を歪ませて、口元は絶えず荒い息を吐くためだらしなく開いている。

濡れているとは言え中はまだ解れていず、奥へと進む俺をぎちぎちと締め上げて拒絶した。

それを攻撃的な欲求の赴くまま、無理矢理に深く貫き身体ごと大きく揺さぶる。

「う、あ、ああ」

苦しそうな呻き声が耳に心地良かった。

俺は好きなだけ乱暴に動き、そして吐精した。



引き抜いたそこから白い粘液が、ペニスに絡みつくようにして僅かに逆流する。

この女はもう生かしておけない。
同じ過ちは二度と繰り返してはならないのだ。

苦痛から解放されたばかりでまだ肩で息をしている名前の、そのか弱く動く喉元に手を宛がい、軽く絞める。

しかし名前の表情は驚きのそれにも恐怖のそれにも変わらなかった。

「恐ろしくないのか」

「は、い…貴方、の、ためなら…」

圧迫された喉で、搾り出すようにそう答える。

どこか遠くを見ているような、名前の眼球は曇りガラスに似ている。

どこまでも従順な部下、散々身体を玩具にされたあげく、命さえも捧げると言うのか。

今まで顔も見たことがなかったこの俺に心底惚れている、馬鹿な女だ。

そのまま腕に力を込めると、支える力の抜けた首がかくん、と後ろへ倒れた。

「いいだろう。ならば傍に置いてやる。それも、これからずっと、永遠にだ」

既に聞こえてはいないだろうが、名前の覚悟を認め、そう言ってやってからするべき事に取り掛かった。



部屋の床に穴を掘る。
仮死状態の名前の口を縫いつけ、その仮初めの墓穴へと横たえた。

何か儀式めいたその作業の間、俺は故郷で焼き捨ててきたある感情を思い出していた。


冷たい地の底で、名前は俺に抱かれている時と変わらない幸せな顔で眠っている。

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